第83話古代の覇者の一族





 それから数時間、礼の一塊の岩に埋まっていた化石が全てギアボックスから取り出された。普通化石とは生物全ての骨がまるまる一揃い出てくるのは非常に稀で、大体がどこか欠けていたり一部の化石しか出ないことが多い。だが幸運に恵まれたのか、ギアボックスから出てきた化石は驚くべきことに全ての骨がほぼ揃って出てきたのだ。






「すげぇ、ほぼフルセット揃ってるとは……」




「すごいことなのか?」




「化石になるだけでも相当に幸運だけど、ほとんど全部の骨が揃った状態なのがとんでもない幸運だ。大体が一部が欠けてたり無くなってたりするからね。数万年単位で時間が経てば仕方ないけど、それでもなおほぼ揃ってるのはガチの奇跡だよ」






 地面の上にキヤが持参していたレッサーリザードというトカゲの魔物の皮を使ったレジャーシートを敷き、そして工房メンバーがわちゃわちゃしながら骨を大体見当のつく位置へと並べていく。そして徐々にこの化石の生前の姿が見えてきた。途中全身像が大きすぎてレジャーシートを追加することになったのはご愛敬だ。ちなみに場所はナルニィエスの実家の裏手の化石を掘り出したところである。そこそこにスペースがあり、ある程度ナルニィエスが自由にしていい場所だからだ。






 六~七メートルに達する巨体、それを支え地面を踏みしめる巨大な太い四本の脚、鳥と同じでありながら鳥のそれとは全く違う丈夫なクチバシ、そして頭の周りの板のような棘だらけの襟巻。鼻先には全てを貫きそうな鋭い一本角。幼い頃に太古のロマンにどっぷりハマっていたキヤには見覚えがあった。






「スティラコサウルスみたいだな、コレ」








 スティラコサウルスとは中生代後期に生息していたと言われる角竜の一種だ。有名どころであるトリケラトプスと同じケラトプス類に属し、姿も非常に似ている。トリケラトプスから二本の角を取って襟巻の外周部分にとげを生やしたらスティラコサウルスになると思ってもらっていい。一説によればトリケラトプスの成熟した個体がスティラコサウルスともいわれているが、真偽は定かではない。古生物学の学説は流動的なものなのだ。ガチで。例えばティラノサウルスの羽毛とか。気になった人は検索してみるといいぞ






「こ、こんなに巨大な魔物が古代に跋扈していたのか……!」




「アタシも長いこと生きてきたけどこんな魔物初めて見たわ。こんなのが昔にはいっぱいいたのねぇ」






 動揺が隠せないナルニィエスとどこか楽しそうに笑うゴルドワーフ。マーソウは無言だが先ほどから頻りに化石の置かれたレジャーシートの周りを興味深そうにぐるぐると回っている。






「しゃちょー、コレは置かなくていいの?」






 ふとマーシュンが両手で魔石の化石を抱えて持ってきた。小柄なマーシュンが少しよろけながら重いものを持ってくる姿はなんだか健気である。






「んー、んじゃ仕上げはマーシュンの手でやってもらおうかな! 多分胸の真ん中にあったと思うからそっちに置いてみて」




「はーい!」






 重いものを持っている為少しよちよちと歩くマーシュン。そして魔石の化石を中心の空いた場所に置いた瞬間事件は起きた。突如として魔石の化石が光を放ち、鈍色にびいろに輝きだしたのだ。






「っ! キヤ! 土壁グランドウォール!!」




「マーシュン走って下がれ!! コール・ギアボックス221!! メタルウォール展開!!」






 とっさの判断でナルニィエスがメンバーたちを庇うように土魔法で土壁を展開、さらにキヤがギアボックスから金属壁を召喚し衝撃に備える。やがて壁の向こうで光は止んだ。あの光が攻撃性のあるものでなくてよかった




 そう思った瞬間だった。前面に配置されていたナルニィエスの土壁が砕かれ、キヤが展開していた金属壁の一部がブチ破られ、キヤの鼻先でギリギリ止まった。






 ガゴォォン!!






 突き出てきたのは先ほど見た魔物の化石の頭骨の鼻先に生えていた、太く鋭そうな角だった。






「ッッ、皆逃げろ!!! コール・ギアボックス……」






 追加で金属壁を呼び出そうとしたキヤだが、角が大きく横に薙ぎ払うように振られ、金属壁を大きく投げ飛ばした。衝撃でキヤたちはよろけて後ろへ転倒し、数トンにも及ぶ金属壁が地面に落ち大きく地響きを上げ土煙を舞い上げる。土煙の向こう側に六~七メートルほどの巨大な魔物の化石が悠々と佇んでいるのが見えた。










ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






「マジか……まさか化石がスケルトンになって復元しやがった?!」




「まさか、あの魔石のせいで?! まさかそんなバカな、魔石は完全に魔力を失っていたぞ?!」






 空洞になり虚ろな眼窩がんかをこちらに向け、魔物の化石改め『古代魔物の化石骨エンシェントスケルトン』はイライラしたようにその丸太のような足をドスドスと踏みしめ、頭をブルブルと振っている。






「よくわからねぇが大分ご立腹みたいだな……そりゃそうか、安らかに眠ってるところを墓掘り起こして無理やり叩き起こしたようなもんだもんな……」




「そんな……」






 ナルニィエスが愕然とした様子で震える中、マーソウが動いた。






「ならばもう一度眠らせてやるまでだ。キヤ、改良したほうの破砕突杭パイルハンマーを出せ」






 キヤは慌てて立ち上がりさらに改良し取り回しやすくなった破砕突杭をマーソウに投げ渡す。これは緊急事態だ、最早なりふり構っていられない。せっかくの化石だが、破壊することも視野に入れる。






「キヤ、ヤツを釘付けにできるか?」




「やってみる。コール・ギアボックス! コード333、三連大砲トリプルマウス!!」






 ギアボックスから無数の部品が吐き出され、バズーカを三つ束ねたような異形の武器がキヤの手に出現する。






「ブチ壊すほど!! 発射シュートぉ!!」






 一斉に放たれた三つの巨大な魔力の弾丸は化石骨エンシェントスケルトンに着弾し大きな衝撃を与える。今回ばかりはコルク弾なんて生易しいものを使っている場合ではない。




 ゴガァァァン!!!






『ゴガガガガガガガ……オォォォォォォォ!!!!!』






 化石骨は無傷だった。どうやら魔力で障壁を作っていたらしい、舞い上がった土煙でうっすらと透明な壁のようなものが見えた。吠えるために必要なはずの喉がないのに化石骨はキヤたちの肌を震わすほどの咆哮を上げた。そして殺意の籠った視線をキヤに向ける






「やっべ……」




『ゴォォォォォォ!!!!』






 化石骨が足を踏み出した次の瞬間だった。






罅割クラック!!」






 化石骨の足元に無数のひび割れが走る。異変に気付いた化石骨が地面に目線を向ける。






「衝突《クラッシュ)!!」




『ゴアァァァァ?!』






 地面のひび割れから土の杭のようなものが一瞬にして生成され化石骨の骨の間に食い込んでいく






破壊ディストラクション!!」




『クオォォォォォォ?!』






 骨の間に食い込んだ土の槍からまるで枝のようにさらに土の槍が生え、骨を傷つけずに完全に化石骨を固定してしまった。キヤが振り向くと、そこには地面に手を置いて得意な土魔法を起動する騎士ヘルムの男がいた






「これでも土魔法界隈じゃ名の知れた貴族エリートだからね。君が大地にある限り、君は僕の掌の上だ」








 騎士ヘルムの中からくぐもった不敵な低音ボイスを響かせナルニィエスが呟いた

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