第82話沼とは面白いと思った瞬間にハマっているものである




 次の日、キヤは工房メンバーと一緒にナルニィエスとの約束の場所へと向かった。恐らく汚れるので女性陣にも汚れても構わない普段の服に着替えてもらっている。せっかくかわいい服を着ていたのにと危うくボコられるところだったが、褒めに褒めたのでなんとか致命傷で済んだ。










「やぁキヤ、今日はたくさん人を連れてきたね。もしかしてお客様? あと顔面ヤバいくらいヘコんでるけど前見えてる?」






(*)←現在のキヤの顔






「後ろのは俺の仲間兼部下、俺ったら意外と社長なので。後前が見えねェ見えてねェ」




「だろうね、でもどうやって喋ってんの。それはそれとしてなんて会社なんだ?」




「歯車鍛冶工房」




「ふあっ?!」












ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






 軽い自己紹介の後、ナルニィエスの反応に意外そうなリアクションをとるサツキ。それもそうだろう、王都にあるとはいえ工房ほんしゃの規模は実験場を考えなければ小さめだ。いや大規模の実験場がある時点で大分規格外ではあるのだが






「そんなに有名なの、ウチ?」




「実はこの都市フクィーカツは数年前からハナツキ商会の肝いりで都市ごと改革されつつあるんだ。この都市の商業はハナツキ商会が牛耳ってると言ってもいい。飛ぶ鳥を落とす勢いの商会が最近取り扱い始めた革新的な道具には、決まってある工房の名前とエンブレムが刻まれてるんだ。それが」




歯車鍛冶工房ウチってことか。あの爺さんやべぇな、今度マッサージチェアでも開発して送ろうかな」






 思ったよりあの爺さんの影響力は大きかった。貴族であるオンディス侯爵と対等に取引している時点で相当な人物であることは明白だったが、都市一つ丸ごと改革は只者ではなさすぎる。あのフランクさからは想像できないほど恐ろしい人物だった。いや、商人だからこそ、そして年を重ねたからこそ人の心に取り入る手段を知っているということだろうか。空の彼方で手を銭マークにしてゲス笑いしているハナツキ爺さんが見えた気がした








「それでキヤ、今日は化石を綺麗に掘りだすって話だったけど」




「あーそのことなんだけど……ごめん」




「もしかして割っちゃったとか?」






 申し訳なさそうに頭を掻くキヤに怪訝そうな声色のナルニィエス。表情が見えないので声色から察しなければならない。というか暑くないのだろうか、そのヘルム






「いやな、俺のこのギアボックスってアイテムなんだけど……化石入れたらトリミングが出来るって」






 キヤはギアボックスを開きパソコンのようになるクリエイティブモードを起動する。そしてタッチパネルを何度かタップし既にトリミングした巻貝の化石を取り出した






「全部はしてないけど小さいのを二~三個キレイにしちゃってさ……勝手にやってごめん」






 申し訳なさそうなキヤだったがナルニィエスは笑いながら許してくれた。お詫びとして何かトリミング用の道具の開発を約束した。キヤは脳内で魔動インパクトドライバーを軽量化し先端をヤスリ状にした物を開発しようと考えた。






「しかしスゴいね、なんでそんなに限定的な能力持ってたんだろ、ソレ」




「俺にもわからん。でもコイツがあるおかげで大分開発が捗ってるし、別に気にするほどでもないかなって」




「わからないでもないけれど」




「それでなんだけど……コレ見てくれ」






 キヤがギアボックスを操作するとそこには大きな一塊の岩が表示され、『岩・太古の魔物の化石入』とあった。






「太古の魔物の化石?!」




「一回さ、コレトリミングしてみて組み立ててみない? メチャクチャ面白そうじゃん?」




「反対する必要はないね!!」






 ニヤニヤ笑うキヤとグフグフ笑いを漏らすナルニィエスに工房メンバーはドン引きしていた。こうして化石復元教室が始まったのである。






 誰もその結果予想外のことが起こるとも知らずに










ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






 ギアボックスにトリミングをお願いして数分後、ピロンという独特な音と共にトリミング終了の通知が響いた。






「よっし、やってみますか!! とりあえず出すよ?」






 キヤがギアボックスから綺麗になった化石を取り出す。時々明らかにギアボックスの口よりも大きな化石が出てきていたりするが、気のせいである。気のせいったら気のせいである。






「なぁキヤ、その化石……」




「デッケェなぁ、なんだろ? 丸い板っぽい? 骨盤かなんかかな」




「いや、明らかにその箱の口よりも大き」




「おっとなんかクチバシみたいなのが出てきたなぁ!! 鳥型の魔物かな?」




「あの、キヤ。その箱」




「おっとぉコレは足の骨かな?! 鳥にしちゃ太すぎるし、がっしりしてるからコイツは恐らく陸上生物だったんだろうね!!」




「……そうだね」






 ナルニィエスは考えるのをやめた。なんやかんやありつつ一通りの化石が出揃ってきたところでキヤは気になるものがリストの中にあることに気付く






「ン?」




「なにか気になるものでも?」




「コレ見てみ」






 カレンが画面を見ると、そこには『魔石の化石 (大)』と表示されていた。






「魔石って、あの魔石ですか?!」




「みたいだねぇ。これはエラい大発見かもよ? デッカ、重てぇなぁオイ!!」






ギアボックスから取り出してみると、そこにはバスケットボールほどの大きさをし、形はラグビーボールのような立派な石があった。ここまで見事な魔石はキヤも見たことがない。




 魔物から採れるタイプの魔石は魔物の魔力の結晶と言われ、長く生きた魔物のみが形成できる非常に貴重品である。数十年でピンポン玉ほどの大きさになることを考えると、この魔石の持ち主はかなり長い間を生きたことになる。ナルニィエスはあまりの発見にしきりにヘルムを布で拭いている。そんなとこ拭いても汗は拭けませんよ






「この化石の魔物は数百年は生きた猛者だったかもしれないってことか……」




「それか、この時代の生き物が作る魔石はこれくらいがデフォルトだったのか、だな。もっと掘ってサンプル見つけて結論出さなきゃね」






ナルニィエスはキヤが示した新たな可能性に驚いた。今と昔では環境が違う、なんせ海の底だったフクィーカツが今では陸上に代わっているように、生き物も時代に合わせて変化したはずなのだ。




 ナルニィエスは完全に古生物学の沼にはまっていた。


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