第80話カニ食べるときって絶対皆無言で剥き剥きするよね




「意外と大量に掘れたな……」




「正直やりすぎた、反省はしている」




「ちなみに後悔は?」




「する必要があるとでも?」




「わかってんじゃん」






 夕方フクィーカツ、ハインツナイツ邸裏にて。そこには大量の岩の塊に囲まれたキヤとナルニィエスがいた。あれから数時間、ナルニィエスによる土魔法で化石の採掘がされたのだが、二人の興が乗りに乗り、屋敷の裏は大量の岩石でごちゃごちゃになってしまったのだ。






「数時間でこの量掘るとか、やっぱ魔法ってスゲェ……」




「キヤのアドバイスが無ければここまで掘れなかっただろうけどね。しかし凄いなぁ、コレ全部化石入りかぁ」






 キヤたちの周りに転がる岩石にはところどころ不自然に色が違う岩が含まれたものばかりだ。そう、これらの岩石は全て化石入りの岩なのだ。まずナルニィエスは崖全体に向かって土魔法である鉱石探知を発動し、化石の大まかな位置を割り出す。そしてアタリを付けた場所をおおざっぱに土魔法で掘りだす。その結果二人の想定を超えて大量の化石入り岩石が出土したのだ。魔力を消費し少々疲れた様子のナルニィエスはキヤに問う






「で、コレをどうするんだ?」




「そりゃちゃんと余計な岩を削ってキレイにしなきゃな。魔法でやれそう?」




「消耗して集中力が切れつつあるからそれはちょっと怖いかな……大魔法使いでもこんなに繊細にモノを掘り出すのは大変だと思う」




「そんじゃそういう道具作るしかないか。ハンマーで割りながらだとちょっとコワいしな」






 とりあえず二人は今日は一旦お開きにして後日集まることになった。とりあえず掘り出した化石は全て一時的にキヤが久しぶりの登場のギアボックスで補完することになった。そしてキヤは気付かなかった、ギアボックスに新たな機能の更新の通知が来ていたことを






『化石を保管しました。トリミングの機能がアンロックされました』




『シークレットミッションをクリアしました。本体更新の後詳細をご覧ください』










ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






 夜。旅館で出た夕食に無言で舌鼓を打つ工房メンバーたち。なぜ無言かと言えば、出されたもののメインがカニだったからである。ハナツキ爺さんがおそらく特注で作らせたであろう、カニの身をほぐし取り出すためのカニスプーンを使ってひたすらほぐしては食べる。キヤとサツキ以外は初めてのカニで多少戸惑うところはあったが、社長と副社長が美味しそうに食べるので続いて食べだした。




 そしてあっという間に時間は過ぎて夕食を食べ終えた一行である






「っはぁ……ウマいモンってやっぱいいなぁ……ウマいモンばっかでお腹いっぱいとかホント幸せだー……」




「ゴハン作るのは嫌いじゃないけど、たまには出されるものをただ食べるのもいいなぁ……エプッ、ごめん」






 ぽやぽやと夢見心地でお茶を啜るキヤに珍しい満足げな表情で笑うサツキ。多少のゲップはご愛敬だ。他のメンバーも似たり寄ったりで堪能したようだ。






「うーん、やっぱり社長と副社長が一番上手くカニを剥いてるね。その次はカレンさんとゴルドワーフさん、そんで私だね」




「こういう食べ方は初めてですけど、悪くありませんね。少々手が汚れるのが難点ですけれど」




「でもカレンさん食べ方キレイだったよー、キヒン? があるというか」




「フフ、ありがとうございますマーシュンちゃん」






 マーシュンが皆の食べた後のカニのガラを見ながらカレンと話している。キヤとサツキは数回とはいえカニを剥きながら食べたことがあるので経験によるものである。そんな二人を見ながらゴルドワーフとカレンは剥き方を学んだらしい。特にゴルドワーフは手先の器用さもあって非常にきれいに身を剥いている。カレンがそれに続いている感じだ。そしてヤグル兄妹といえば






「ゴルドさん、カニ剥き手伝ってくれてありがとー♪」




「どういたしまして。こういうのもなんだけど、マーソウちゃん剥くのヘタ過ぎない?」




「ドーセオレナンテ……イインダ……ドーセオレナンテ」






 マーソウの目の前にはぐちゃぐちゃになり美しくない食べられた方をしたカニの残骸が転がっていた。マーソウ以外の全員が苦笑いした。マーシュンはちゃっかりゴルドワーフに手伝ってもらいながら食べていたらしい。




 そして食べ終えて数分後、見計らったかのように旅館の仲居さんがデザートを持ってきてくれた。暑い盛りにぴったりのデザート、冷やしたわらび餅である。宝石のようにツヤツヤで透き通っており、脇にはきな粉と黒蜜らしきものも完備していある。






「わらび餅じゃん、ガチで久しぶりだな……向こうでもそんなに食ってなかったぞ。ん、モチモチプルプルでうめぇな!」




「多分片栗粉で作ったヤツみたいね……片栗粉のほうしか食べたことないからアレだけど。んむ、おいひ」




「すごーい、こんなの初めて食べた! 冷たいのに溶けないの! おいしーい!」




「あ、ダメですコレ、延々と食べられるやつです……」






 キヤとサツキは懐かしみながらもわらび餅を噛み締め、マーシュンとカレンはどうやらハマったらしい。ゴルドワーフは知覚過敏を患っているせいで口に入れた瞬間無言で顔を細めていた。






「なんだこの粉は……へ、ブヘックショイ!!!」






 きな粉で盛大にくしゃみしたマーソウのせいで現場は一時的に大変なことになった。結局マーソウは寝るまでずっと落ち込んだままだった。誰がわらび餅食べたら大惨事大変になると予想出来たろうか。

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