第20話頼り、頼られて人間の世界は出来ていく

 ハナツキとの会談の数日後。キヤは王都の一等地で馬車を走らせていた。隣にはオンディスとサツキもいる。キヤは自分の工房を構える場所の下見に来たのだ



「私の家から徒歩で数十分。警邏の定期的な巡回ルートで治安もよく、一等地とはいえ端に位置するため市場にも近く住むには最適。どうですかぁ?」


「えっと、ホントにいいんですか? そこまで期待されると正直委縮するっつーか……胃に穴が開きそう」


「起業資金は私とハナツキさんで出しています、端的に言えばキヤさんは私たちに借金している形になるのでぜひとも頑張ってください」



 メガネの弦を押し上げながらニタリと笑うオンディス。場面だけ切り取ってみれば殺人の計画でも練っていそうである



「やべぇよやべぇよ、手口がヤーさんだよ……」


「利益が出ることが分かり切っていますから、多少はね? 利子は良心的なので大丈夫ですよ」


「あー泣きそう……胃に穴空きすぎてハチの巣みたいになりそう……胃袋だけに!!」


「それは牛の肉の部位である胃袋の一つ通称ハチノスからきたギャグかしら回りくどくてわかりづらいしつまらないわね土見てる方が楽しいわ」


「ギャグ解説した上つまらないとか完全に殺しに来てるよねさっちゃん……前世は鬼かなんか?」


「さっちゃん言うな。てかオンディスさん。これってサボりじゃな」


「さぁ着きましたよ」



 全力で窓の外を見ながら食い気味にオンディスは到着を知らせる。そこには店舗にしては少々広めの建物があった。馬車から降り、その建物の立派さに驚きで開いた口が塞がらないキヤ



「はぇ~、スッゴい立派……ホントにいいんです?」


「先ほども言いました通り初期投資、というやつです。裏手には広めの倉庫もありますし、居住するにも大きな問題はないでしょう。では、入ってみましょうか」



 オンディスがカギを取り出し扉の南京錠を開ける。中は少々ホコリが目立つもののそれほど痛みなどなさそうで荒れていなかった。備え付けの棚やキッチンなども十分に使用に耐えるモノであり、強いて言うなら掃除が大変なことくらいか



「すげぇ……もう語彙力溶ける……てか、なんでこんな良立地なのに空き家なんです?」


「ここには元々そこそこに名のある商会の商店があったのですが、もっと良い立地の場所が空きましてね。そこに商店は移転になり、空いたこの店舗をハナツキ商会が買い上げたんです。タイミングよく手に入った店舗をハナツキさんがキヤさんに借家として貸す形になりますね」


「ふむ……え、てことは俺、支店を預かる形になるんです? いきなり支店長ですか? 俺?」


「いえ、さすがに会ったばかりの人間に支店長を任せるほどハナツキさんは無責任ではありませんよ。ここはキヤさんの自由に使ってくれと。ただ、改装などする場合は相談してくれと言っていました。なにかあったときはワシがケツを拭いてやる、と」


「シゲゾーじいちゃん……あぁクッソ、カッコいいじいさんだなぁ……!!」


「さてキヤさぁん、倉庫の方も見に行きましょうか」



 店の裏手にはかなり大きめの倉庫とワンルームほどの広さの倉庫が二つあった。丁度作業スペースと倉庫として使えそうだ。ポケットから新たにカギを二つ取り出しキヤに渡すオンディス



「コレが倉庫のカギです。丸い方が大きな倉庫、四角のほうが小さな倉庫です。大きい方からどうぞ?」


「ウス、開けます」



 大きい方の倉庫の鍵を開け、扉を開く。そこには



「あれ?! もうなんか入ってる?!」



 そう、大きな倉庫の半分ほどに既になにやらモノが置かれていたのだ。しかも、キヤはどれも見覚えがあった。瓶詰の大きなチューブワーム、置いてきたはずのベルトサンダや木製旋盤、そして魔石の入った金庫。キヤは言葉を失い立ち尽くす



「おや、もう届いていましたか。コレはとある人物からの餞別だそうです。コレをやる代わりに、たまにでいいからお土産持って顔を見せに来いと」



あぁ、こんなカッコいい大人の男になりたいなぁ。そう思いながらキヤは頬に雫を垂らした



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 しばらく後、三人は居住スペースに来ていた。



「広さもあり日当たりもよし、しかも家具やベッド付いてんねや……えぇやん! で、家賃なんぼなんです?」


「こちら、金貨十四枚となっております」


「十四枚?! こんなえぇとこで一四枚って……いや、安いけど高いなぁ……借金に月一四枚かぁ……大丈夫かな俺……」



 この世界の物価はそこそこに安い。一月生活するには金貨十枚もあればいいのだが、着の身着のままでこちらに飛ばされてきたキヤにはものすごい重圧となっている



「ところでキヤさぁん?」


「なんでしょ?」


「こちらどうぞ」



 キヤに差し出される物凄い重そうな袋。受け取ると、危うく落としそうになるくらいの重さだ。中からはジャラリと重厚な音がした



「ぅえ?! 重ッッ?! て、コレなんですかコレ?!」


「言い忘れていましたが、ハナツキさんから取引でジャッキの代金金貨五十枚です。あの時ハナツキさんにキヤさんの作ったジャッキを売りましたよね? 後で色々と取り決めていくことになっていますが、ハナツキさんはジャッキを製造、販売する権利が欲しいそうです」



 そうだ、あの時ハナツキにジャッキを見せたら欲しいと要望されたので販売したのだ。キヤはもう使うこともなさそうなのでタダで上げてもいいと思っていたが、オンディスとハナツキはそれはダメだと二人が値段の話を進めたのだ。


 キヤはオンディス家の馬車の為にまた一組作っておこうと脳内で計画していたのだが、色々と考えている間に話がまとまっていたらしい。コイツダメだ、早く何とかしないと……



「素人には難しい話だったのでつい……よく聞いてなかったっす……ホロオットさんの為にもう一組作っとこうと考えてて……」


「まぁ仕方ありませんね。コレはキヤさんが売ったジャッキの販売値にハナツキさんが少々色を付けたものです。こちらもちゃんと答えなければいけませんよぉ?」


「ウス、急いだほうがいいですかね? あと契約の場面では俺も居て大丈夫ですよね?」


「そうですねぇ、こちらの店舗が整い次第急いだほうがいいでしょう。むしろキヤさんがいなければ話が進みませんから。いずれこういった商談は必ずあります、なにかわからないことや不安なことがあれば私を頼ってくださいね? 商人って意外と、怖いですよぉ?」


「身に染みてわかりましたです……ありがとうございます」



 木屋工太一八歳。まだまだ学ぶべきことは多い

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