第18話なんだこのオネェさん?!

「ここが職人ギルドかぁ、まるでテーマパークみたいでワクワクするなぁ!」



 本日キヤは王都にある職人ギルドに来ていた。職人ギルドとは木工から宝石加工まであらゆる職人と呼ばれる人たちが在籍するギルドで、世界に大きな影響を持つギルドの一角でもある。キヤは新たな職人として、そして身分証明書を発行するためにここに来たのだ



 館内を軽く見まわすだけで非常に多種多様な職人があたりを行き来している。腰に金づちをマウントしているドワーフのような人物や、彫刻刀らしきものを腰にマウントした金髪のエルフのような人までいる。もっといろんな場所の様子を見ていたかったキヤだが、身分証発行を最優先と考え受付へと足を運ぶ。丁度キヤの目の前の受付が空いたのでキヤはそこへ滑り込んだ



「いらっしゃいませ、職人ギルドへ! 本日はどういったご用件でしょうか?」


「はい、今日は……あれ? 人がいない?」


「あ、こっちですこっち、目線を下へ!」


「おぉう?!」



 可愛らしい声はすれど受付嬢の姿が見えぬ。と、カウンターの下のほうから声がし、目線を下げるとそこには小さな金髪の女の子がいた。ニコニコと人のよさそうな笑顔を浮かべ、足の長いイスのうえにちょこんと可愛く座っている。


 頭のてっぺんがカウンターと同じ高さにあるので気が付かなかったのだ。このままでは仕事がしづらいと思ったのか、受付嬢はイスの上に正座する形に移行した



「し、失礼しました、こんにちはッス」


「はい、こんにちは! 改めまして、本日はどういったご用件でしょうか?」


「あ、ギルドカード発行と登録のお願いを」


「はい、かしこまりました! 字の方はお書きになられますか?」


「ハイ、大丈夫ッス」


「ではこちらの用紙に必要事項をお書きください。わからないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね!」



 この日のためにキヤはこの世界の言語をホロオットやハンド達から学んでいた。ちなみにホロオット、昔は非常にやり手の商人だったらしくオンディス侯爵とのコネもその時に作ったんだとか。どうでもいいが昔ケモミミヒロインとのラブロマンスがあったとかなかったとか。



 それはともかく、キヤは貰った用紙に必要事項を書き込んでいく。さらに注意事項などでわからないことがあれば遠慮なく聞いておく。聞いたことはちゃんとメモに残して纏めておく。キヤが短期でバイトをしていたときに、一緒に働いていたフリーターのお兄さんから聞いた、やっておいて損はないことの一つである



「書けました」


「はい、ではお預かりしますね!」


「あそうだ、コレもお願いします」


「これはなんでしょうか?」


「いえ、お世話になってる人が渡せと。詳しくは俺にも。後登録よりも先に封筒の中身を見るようにと言われてます」


「そうですか……ではこちらもお預かりしますね!」



 キヤが取り出したのはオンディスから預かった封筒だ。何が入っているのかはキヤにも知らされておらず、ただ受付の時に渡せとだけ言われている。突然の提出物にも面倒くさそうな表情一つせず丁寧に応対する受付嬢の鑑、キヤは今後はこの受付嬢さんにお世話になることにした。受付嬢が封を開けようとペーパーナイフをとり、封蝋の部分を見た瞬間



「拝見しますね……ふえっ?!」


「はえっ?! なんですか?!」


「あ、いえ! 侯爵家の封蝋だったので少し驚いてしまって……少々お待ちくださいね!」


「ハイ、大丈夫ッス」



 書類に目を通し、受付嬢は非常に驚いた表情をし、キヤと書類をかわりばんこに見る



「えっと、キヤさん?」


「コウタでいいッスよ。なんですか?」


「貴方は近々自分の工房を立てられるのですか?」


「ヘアッ?! そんなこと書いてあります?!」



 受付嬢は書類をキヤに渡す。見ると確かにキヤコウタは近々新たな工房を立てるとし、その際の口利きの書類だった。



「しかも工房を立てる予定地、この辺りの一等地ですよ! よほど侯爵様に気に入られているのですね!」


「いっと(↑)ーち?!」



 自分に物凄い期待とお金がかかっていることにキヤは口から白熱光が出んばかりに驚く。オンディスさん、やりすぎではないだろうか。立て続けに起こる驚きでキヤの頭が蒸気を発し始めたころ、受付嬢はうん、と決意したように頷きキヤに話しかける



「わかりました! 私はシャルノームと申します、これからコウタキヤさんの専属受付嬢に就任したいと思うのですが、どうでしょうか!」


「あ、シャルノームさんですか、キヤですよろしく……って、そんなこと言っちゃっていいんですか? 駆け出しのペーペーの俺をそんな気にかけてもらって」


「侯爵様はこういった形『では』ウソはつきませんし、非常に人を見る目があるお方なので! 書類には画期的な技術をお持ちなんだとか! 正直言って私、スゴくワクワクしてるんです!」



 ヒマワリが咲いたような笑顔と好奇心に溢れた目がキヤを見つめる。その笑顔に尊みを感じていると後ろから強烈な気配がこちらへ向かってきているのを感じた。ごとり、ごとりと重厚な足音まで聞こえてくる


 キヤはあくまで一般人だ。気配感知など武道の達人じみたことはできないし、出来たこともない。だがそんなキヤでも感じ取れるほど強烈な気配がやってくる。背筋に冷や汗が伝い、全身が小さく震えるほどの威圧感と背中を突き刺すような目線を感じている。



「(なんだこの、背筋を這い回るような悪寒、そして突き刺すような視線……怖えぇ!!)」



 意を決して気配のする方へ顔を向けると



「あっらぁシャルちゃんったらいい顔してるじゃなぁ~い? 面白い新人さんでも来たのかしらぁ~ん?」




 筋骨隆々の巨大なオネェが佇んでいた。身長およそ2m、濃ゆい顔に頭は辮髪ベンパツでツルツルに刈り上げられており、分厚いエプロンが存在感を放っている。正面から見たら裸エプロンに見えてしまうような格好で、チラリと後ろを見るとホットパンツのような下に上はエプロン以外何も着ていない。


 これは最早筋肉モリモリマッチョオネェの変態だ。





ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「(あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! 何か凄まじいものの気配を感じて振り返ったら筋骨モリモリマッチョのオネェが佇んでいた……な、なにが起こったか大体わかってもらえると思うが、俺は何が起こりつつあるのかまったくわからない……頭がどうにかなりそうだ、これはお願いマッスルだとかドーピングコンソメスープとかなんてチャチなもんじゃ決してねぇ、もっと凄まじいものを感じたぜ……)」



 キヤがテンパってピヨっている間に受付嬢とオネェは親しそうに話し込んでいる



「はい、なんとオンディス侯爵のお墨付きの方が登録にいらっしゃったんです! なんでも革新的な技術をお持ちなんだとか!」


「ホントぉ?! あのオンちゃんのお墨付きなんて信じられないわ! ねぇボウヤ?」


「はぇっ?! なんでしょうか?!」


「あらカワイイ」


「ヒエエッ?!」



 テンパったキヤの反応がツボったのか、オネェの目の光に獣性が宿る。背筋に氷の塊を入れられたかごとくの寒気がキヤを襲う!! キヤの明日はどっちだ!!

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