第17話お邪魔した貴族様の家で調理器具を作る男

 数時間後。ひったくりを警邏に引き渡しキヤたちはオンディスの屋敷へと来ていた。そう、屋敷である。お貴族様が住んでいるような。キヤは冷や汗をダラダラ垂らしながらオンディスに問う




「はぇ~……これオンディスさんのお家なんです?」


「そうですよ。悪くないでしょう?」


「ホント今更なんですけど、もしかしてオンディスさんってお貴族様だったりします?」


「おや、そういえば失念していましたね」



 そういうとオンディスは優雅に手を胸に当て、頭を傾ける



「我が家へようこそ、コウヤ・キヤ殿。私は侯爵家現当主、オンディス・ク・リーンフォン・ベッケンハイム。以後よろしくお願いしますよぉ?」



 ちなみに侯爵とは五爵位の内二番目の爵位となる。要はすごい偉い人なのだ。ちなみに下手すれば不敬罪でチョンパである



「……もしかして、俺不敬罪ちゃいます?」


「私はそういった堅苦しいものは気にしないので大丈夫ですよぉ、若いときは冒険者をやってましてねぇ。ウチの者もその辺りはわかっているのでリラックスしてもらってかまいません」


「ありがとうございます……」



 キヤが心の底から安堵していると、大きな扉が蹴破る勢いで開きコワモテの男が出てきた。手にはなぜか木刀が握られていて、正直似合わない執事服を着ている。その男の姿を見た途端オンディスの表情が凍り付く



「おうおうオメーどこ行ってたんだよオメーよぉ!! 侯爵の仕事ほっぽり出してよぉ!!」


「ハンド、お客様の前です、もう少し優美に……」


「知るか! ことあるごとに仕事サボりやがって、今日という今日は許さねえからな~?」


「頼む、数時間だけ待ってくれ」


「ダメだ!」


「ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜!!」



 甲高い悲鳴を上げながらオンディスは首根っこを掴まれ連行されていった。取り残されるキヤとサツキ。と、馬車と馬を戻し終えたホロオットがキヤたちの元へ戻ってきた



「お二人ともどうされたんで? あぁ、ご主人様がハンドさんに連れてかれましたか」



 彼の口ぶりからオンディスのサボり癖は日常茶飯事のようだ。見かねたホロオットは近くのメイドを呼び、二人を客間へと連れて行くようにお願いしてくれた。



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 二人は客間で出された紅茶を味わっていた。ドアの傍にメイドが一人常駐しており、何か用があれば声をかけてもいいらしい。


 客間は貴族らしくあちこちに凝った装飾が施されていたが、悪趣味ではなく優美という言葉の似あう部屋だった。キヤは物珍しそうにあちこちをチラチラ見ている。ふと気になったことがあったのでキヤは紅茶を飲むサツキに話しかける



「そういやさっちゃん」


「さっちゃん言うな。何よ?」


「さっちゃんってオンディスさんといつ出会ったの?」


「そうね、こっちの世界に来てスグかしら。この屋敷の裏に荷物の搬入口があるんだけど、気が付いたらそこに倒れてたのよ」


「え、警備の人にヒドい事されなかった? 薄い本みたいに? 薄い本みたいに?」


「お前後で去勢な。まぁ最初は警戒されたけど、オンディスさんがとりなしてくれたのよ。人柄も悪くなさそうだったし、お菓子作ってあげたら歓迎されたわ」


「へぇ~。ちなみに何作ってあげたのん?」


「丁度庭にベリーがあるって言ってたからベリーのムース作って、ベリーケーキ作ってあげたわ。おかげでこの屋敷のメイドは全員友達よ」


「ほへー、凄いのなー。ホイップの泡立て大変だったでしょ?」


「だからアンタには期待してるわよ? じゃないとこの屋敷のメイド全員が殺しに来るわ」


「任されて! ……え、ヤダ、メイドさん怖すぎ……? カサがショットガンだったりスカートの中に手りゅう弾しこたま突っ込んでありそう……」


「申し訳ないけど不死身のターミネーターメイドはNG」






ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「という訳で調理器具を作ります」


「はぁ、そうですか」



 使用人が待機する広場にキヤとホロオットはいた。あの後ハンドという名の執事 (?)が今日はオンディスは缶詰オシゴトの刑なので各自自由に過ごしていいと知らせに来てくれたのだ。





その頃の地下牢(オンディスの書斎)



「今日中にやらなければいけない書類が八百八枚……八百九枚……八百十枚……」


「オラ、追加だ。これで千九百十九枚だな」


「誰か助けてーー!!!!」






 そんな訳で時間の余ったキヤはサツキから依頼されていた魔動泡立て器を作ることにしたのだ。素材はある程度カバンに詰めてきていたのでそれを使う。ちなみにホロオットさんはお目付け役である




「でも現代ウチで使われてたような精度のイイやつは作れないので、とりあえずプロトタイプを作ろうと思います。本格的なものは資材が揃ったら、ね?」



 今回使用するのはボルタの所に居た時にお世話になっていた鍛冶屋さんに作ってもらっていた薄い金属板 (小)×10、金属棒 (小)×2、そして中央に穴の開いた回転の魔石×1、木の板×4 (小)、木の歯車×1、スライムの接着剤だ。


 金属板の両端に穴をあけ、火で熱し曲げていく。それを八本分、ゆるく『コ』の字になるようにだ。金属棒に四つずつ、上から見た時に十字型になるように組み合わせ接着剤で固定。これでミキサー部は完成



 次は本体。木の板で箱を作り、その時に底に二つ金属棒を差し込む穴をあけておく。箱の中に回転の魔石と木の歯車を箱の穴に重ねるように並べる。ミキサー部を魔石と歯車の穴に通し、接着剤で固定。余った鉄の棒を別の真っすぐな金属板で挟み込み固定、駆動時の軸のブレを防ぐ。これで大体は完成だ



「ほへぇ、なんて手際の良さだ。ご主人様が目をかけるわけだなぁ」


「んーーー、正直ザツもザツなんであんまり褒めないでください……武器職人に例えたら、タダの鉄の板に取っ手付けてコレは盾だ! って言ってるみたいなモンなんで」



 職人特有のこだわりのようなものだろうか。





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「出来たよさっちゃん! 魔動泡立て器プロトタイプだ!」


「え、もう作ったの?!」


「んだんだ! という訳でスイーツ(笑)作ってちょ!」


「……もぅ、しょうがないわね」



 ふっ、と笑うサツキにキヤは『こういう笑顔が見たかったんだよなぁ』と思わず笑みをこぼし、そして初めて見るサツキの笑顔にキュンとしていた

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