第16話王都珍道中

  あの決意の日から数日後、キヤはオンディスの馬車で王都までやって来ていた。荷物はこの世界にやって来た時に持っていたカバンに全て入っている。道中のハイライトをご覧いただこう




「ねぇ、そのカバンってアンタの自前?」


「そうだよさっちゃん。KAJIDESUのサックなんだけど、中学校からずっとコレ使ってんだよねー」


「さっちゃん言うな。そのカバンの中、何入っているの?」


「キャッ! さっちゃんったらエッチなんだから! でも、さっちゃんになら……いいよ?」


「シッ!」


「お゛ぉん?!」



 パァン!!! と気持ちのいい音が響き、キヤの頬には大きな腫れが出来た。



「もう一度だけ聞くわ。何が入ってるの?」


「一切れのパンとナイフとランプ、そんで青い光る石がサングラスのおっさんの目つぶし用に入ってる」


「そう……」


「心底どうでもよさそうな顔!! せっかくボケたんだから突っ込めYO!!」


「あ゛ぁ?」


「ひいっ?! 食べないでください!!」


「食べはしないけどエグるわよ?」


「何を?!」



 サツキの背後にわらぁ……と髪の毛を逆立たせた獣が見えたような気がするが、気のせいではない。二人の漫才を心底楽しそうに見つめるオンディス。



「い~いパンチしてますねぇサツキさぁん? もしかして前世はファイターでしたか?」


「オンディスさんもいっときます?」


「いえ、遠慮しておきますよ……シッ!!」



 オンディスが急に窓を開け短弓を放つと、窓の外から遠くのほうで何かがドサリと倒れる音がした。



「ふむ、リーダーはりましたが他は逃げましたか。まぁいいでしょう、上々ですね」


「やっぱこの人の弓術と聴覚やべぇよやべぇよ……」



 後に分かったのだが襲ってきたのはオオカミの群れで、オンディスが放った矢はリーダーの脳天を一撃で射抜いており、頭を失った群れは散り散りになったようだ。動く馬車の中からオオカミの気配を感じ取り、短弓でしかも一撃で寸分の狂いもなく動き回るオオカミの群れのリーダーを選んで射抜く。なにこのメガネさん技術おかしい



「ご主人様、皆様、もうすぐ王都に着きますよ」



 おじいさんことロレンスさんが窓から知らせてくれる。キヤは窓から身を乗り出し前を見ると、巨大な石壁がキヤの視界いっぱいに広がった



「おぉーーー! 端っこが見えねぇ……スゴく、大きいです」


「この堅牢な石壁は王都の象徴……かつて起こった戦争での籠城戦は敗けなしという実績もあるんですよぉ?」


「はぇ~……ねぇ、歴史感じちゃう! ね、さっちゃん!」


「さっちゃん言うな、口から手ェ突っ込んで食道ズタズタにするわよ」


「ヤダ怖い……ヤメチクリー……どうやったらそんな発想に行きつくの……」



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「王都に入ったらまず私の屋敷に向かいましょう。長旅でしたから、キヤさんはゆっくり休んでくださいねぇ?」


「あ、こういうとこって身分証明とか必要じゃないですか?」



 転生モノの小説の大体のパターンとしては道中助けた人が身分を証明してくれたり、衛兵に袖の下だったりするのだが、キヤたちは馬車から一度も下りずに王都へ入った。顔パスで入れるということは、オンディスはお偉い立場なのだろうか? そういえば馬車の横に紋章みたいなのがあったなとキヤは思い返す。横から見た飛び立つ梟のバックに弓と矢がクロスする形の紋章だ。



「大丈夫ですよぉ、今回は私がキヤさんの身元保証人になっています。明日になったら適当なギルドでギルドカードを発行してもらいましょう。急いては事を仕損じる、とも言いますしね」


「何から何まで申し訳ナイス……」


「いえいえ。ところで、小腹が空きませんか空きますよね、おじいさぁん、少し停めてもらっても?」



 オンディスの態度を一瞬不審に思ったキヤだが、数秒後かぐわしい炭火で焼いた肉の匂いが鼻孔をくすぐる。ちょっと小腹が空いたときにこの匂いは販促だ。いや反則だ。大体あってはいるが



「オンディスさん、よければ俺もご相伴に……」


「もちろんです。サツキさんはどうですかぁ?」


「私は結構で」


「隣に焼きたてのお饅頭の屋台もありますよ」


「お饅頭のほうで」



 そして寄り道することになった。どうやら牛串とお饅頭の屋台のようだ




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「相変わらずい~い肉使ってますねぇ……これって、勲章モノですよぉ?」


「いつもありがとナス、オンディスさん!」



 上半身だけがやたら筋肉質な屋台のおじさんがオンディスと話している。どうやらオンディスはこの屋台の常連のようだ。キヤも美味しそうに牛串を頬張り、サツキもお饅頭を頬張っている。



「おじさん、この牛串スゲーうまいよ!!」


「誰がおじさんだとフザけんじゃねぇよオラァ! お兄さんだろぉ?!」



 どうやらこの店主は自分の呼ばれ方にこだわりがあるようだ。魚を捕まえるための網をそのまま服にしたような奇抜な服が、店主の怒りに呼応して網目が伸びた



「てかこのお饅頭もおじさんが作ってるのね、おいしいわ」


「だからお兄さん……」


「うまかったー、また食いに来るよおじさん!!」


「……お兄さん……」



最後の方は涙目で小声になっていたおじさんだった



「だから、お兄さん……」



 ついにモノローグにも見放され、おじさんは一人さみしく泣いた。と





「キャー!! ひったくりよーー!!」



 三人は声のする方に目を向けると女性がうつ伏せに倒れながら叫び、ひったくり犯らしき男性が女性の荷物らしきものを抱えながらナイフを振り回してこちらへ走ってくる



「オラオラどきやがれぇ!! ズタズタに切られたくなかったらなぁ!!」


「おっぶぇ?!」


「キャッ?!」



 サツキは飛びのきながら頭を抱えてしゃがみ込み、オンディスは最低限の動きで射線上から飛びのく。キヤもワンテンポ遅れて脇に逃げる。


 だがひったくりが三人を通りすぎた瞬間にひったくりはうつ伏せに転倒し、石畳と熱烈なキスを交わした



 ポイッ ガロン ガッ ズベン!!!



「ぶげぇ?!」


「足元がお留守だぜ、生ゴミ野郎」



 脳が激しく揺さぶられクラクラの犯人をキヤはキャメルクラッチで拘束する。キヤはとっさの判断でひったくりの足元にそこそこに重いスチームガンを投げ入れ躓かせたのだ。ひったくりは前しか見えていなかったのと慣性の法則もあって思い切り蹴躓いたのだ


 転倒した衝撃でひったくられたカバンは宙を舞い、丁度サツキの腕の中に舞い落ちた。



「悪党は短命、はっきりわかんだね」

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