第15話全てはこの決断から始まった
「あーもうムチャクチャだよ……やっぱ武器としてはダメだなコレな、あたりまえだけど」
キヤはゴブリンの青い血に
「……どーすっかなぁ、俺なぁ……」
「おや、キヤさん。何をしてらっしゃるのですかぁ?」
洗った部品を日当たりのいい場所に置き、一息つくとオンディスが現れた。相変わらず人のよさそうな、悪く言えば胡散臭い笑みを浮かべている
「あー、ゴブリン撃退したときに使ってた道具の手入れっすね。前にも言いましたけど、コレ武器として作ったワケじゃないんで」
「なるほどぉ、そういうことでしたかぁ。ふむ、これを機に剣術でも習ってみては?」
「あー、まぁ考えときます」
曖昧な返事をするキヤにオンディスは優しく問いかける
「残していくボルタさんが心配ですかぁ?」
「ッ!」
図星だったのか、表情に陰りが出るキヤ。頭に巻いているトレードマークのバンダナを外し、頭をガシガシ掻く。キヤは王都行について悩んでいた。あの場で返事はせず、1日待つようにオンディスに頼んだのだ。
「そういうわけじゃないんですけど……まぁ、正直話に着いていけてないってのがホンネですね。そりゃ俺みたいな技師のタマゴは大きい都市で色々と学んだほうがいいんでしょうけど。今まで守ってくれてた人放り出して、ってのはね。まだ恩を返しきれてないんですよ」
「そうですかぁ。感情論
そういうもの
は人それぞれですからねぇ。よく悩むといいですよぉ?」
机の上に置かれた工具を手に取り、指でなぞりながらオンディスは答える。その表情は優し気だ。若者の背を押す年長者の貫禄が出ている。キヤ自身は王都へ行くこと自体は好意的に考えている。が、そうした場合ボルタを置いていくことになるのだ。
ボルタは王都の騒がしさがどうしても好きになれず、森の近くに居を構えそこに移り住んだとキヤは本人から聞いていた。今まで衣食住を提供し色々なことをキヤに教え、あまつさえ大事なものであろう魔物の素材や魔石を自由に使わせてくれたのだ。
キヤはなんの恩も返さずボルタのもとを去ることは、それは少し違うだろうと思い悩んでいた
「助言はしないんスね」
「私は強制は嫌いですから。キヤさんが選んだ道がどんなものであれ、キヤさんが後悔しない道を選ぶなら私は応援しますよ? ここに残ってしばらくした後王都に来るという手もあります。答えは決して一つではありませんよ」
「ありがとうございます」
キヤのどういった決断でも受け入れてくれると言ってくれたオンディス。キヤは心から感謝を伝えた。オンディスはキヤの肩を優しく叩き、客間へと戻っていった
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
夜。食後キヤは自室の窓側に座り月を見上げていた。薄雲がかかり、朧月となった月は辺りを優しく照らしている。そういえば遭難していた森から出た時もこんな月夜だったと思う。
現代でキヤがお気に入りだった月に関する歌を口ずさむ。歌で誤魔化そうとするもキヤの心の空模様は曇天から変わらない。
どこか悲しげな歌をボルタは部屋の外の壁に寄りかかりながら聞いていた
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
次の日。今日の朝食当番はキヤだ。早めに起きてお客様の含めた4人分のベーコンとパンを焼き、トマーテなどをざっくばらんに切りサラダにする。
「おう、キヤ」
「おはようですボルタさん、もうちょいしたら出来るんで」
ボルタが席に着き、何とも言えない沈黙が流れる。キヤがベーコンとパンを焼き終わり、皿に盛りつけていると唐突にボルタが切り出す
「キヤ、お前は王都へ行くつもりなのか?」
その声色はあくまで平坦だった。盛り付けの手が一瞬止まるが、数秒おかずに再び盛り付けに戻る
「……正直、個人的には行きたいですね」
「素直だな」
「ボルタさんに隠し事はしたくないんで」
手をタオルで拭きつつ席に着くキヤ。愚直で不器用な男だ。どこか自分に似ているようでボルタは少し微笑ましく思った。
「ワシが枷になっとるのか?」
「違います!! ……恩も返せてないのに自分の都合で出ていくのが許せないだけです」
思わず声を荒げるが、自身が上げた声が思ったよりも大きいことに自分で驚くキヤ。昨日のような戦いの場ならいざ知らず、爽やかな朝に大声を出したことを恥じる
「恩、か。生意気を言うな!」
「っ?!」
いきなりのボルタの怒声に思わず縮こまるキヤ。怒ることの少ない人間は怒られることも少ないのだ
「そういうもんは立派に一人立ちしてから言うもんじゃ。自分で立派に立てるようになったら返してくれればいい。それと、恩を返せていないといったな。お前との生活は隠居したジジイにとってはとても幸せじゃったよ」
「っ、ボルタ、さん」
キヤの肩を優しく叩き、優し気に笑うボルタ。知らず、キヤの頬に水滴が伝う。
「お前の作るものは人を幸せにするじゃろう。そして必ず世界を大きく変えるだろう。より多くの人を幸せにするために行け。王都で学び、磨き、そしてまた戻ってこい」
「はい……はい!」
キヤの決意は固まった。彼は後に『
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