第14話昔の日本人よくこんなモン作れたよねってものの代表
「prrrrrrrr シュコァー、茶運び人形 (異世界ver)!!」
あれから戻ってきたキヤが取り出したのはお盆を抱えた人形だった。丁寧にもお盆の上にはちゃんと木を削って作られた湯飲みが乗っている
「え、もしかしてからくり人形?! これアンタが作ったの?! 一から?!」
「ん、まあねー。昔夏休みの自由研究で組んだことあってさ、動力だけ別のモンにして組んでみました」
そう、キヤがこの世界に来てからずっと作っていたもの。それはからくり人形の一種である茶運び人形だ。
ゼンマイと歯車、そしてカムシャフトなどで一切の電子機器を使わず『前進』『一礼』『反転』『前進』と複雑な行動をするという、日本の
なんとキヤは『回転の魔石』を動力とし、木から削りだした部品や糸などを使ってここに茶運び人形を完全に再現して見せたのだ。
キヤが小学校のころ(お手本となる現物を見ながらだが)自分でダンボールなどを切り張りし買ってきたゼンマイを取り付け、からくり人形を自分の手で再現してしまったことがある。そのときの経験が生きたようだ。ちなみにモチーフはメイドさんだ。簡易的とはいえちゃんと頭にはホワイトブリムを乗せ、本職のメイドが着ているようなメイド服も着ている。意外と手芸もこなすキヤであった
これが何かを知らないボルタとオンディスは当然不思議そうな表情をしている
「こいつは……えらい下半身が四角い人形じゃな」
「ふむ……僅かながらに魔力を感じますよぉ? これは魔道具ですかねぇ?」
「魔道具……うーん、道具というよりオモチャなんで、さしずめ魔玩具ですかね? アッハッハ!! まぁ動かしてみましょ。ちなみに材料は魔石の他はただの木とか糸とか布ですよ」
キヤは人形の持っている御盆に小さな木のコップを乗せ、水を入れる。そして人形の下半身の右側の扉を開くと、そこについている回転の魔石に魔力を流し扉を閉め大き目の机の上に置く。すると人形はゆっくりと対面にいるボルタたちのほうへと動き出したのだ。
ボルタは今までキヤの作り出したものを見ているのでそれほど驚きはしなかった。オンディスもそれなりに妙なものを見る機会はあったので、その人形の出来栄えには驚いていたものの特に驚きはしなかった。
やがて人形は二人の前へとたどり着き、止まる
「これはよく出来てますねぇ。込められたごく僅かな魔力だけでここまで効率的に動かすなど、並大抵の構造ではできませんよぉ?」
「そうじゃな。じゃがキヤ、ただ進むだけならゴチャゴチャ付ける必要はないんじゃないか?」
その反応は予想済みのキヤはニヤリと口角を上げる。
「お盆からコップを取ってこのコップに水を捨てて、もう一度戻してみてください」
言われるままオンディスは人形の持つお盆からコップを取り、別のコップに水を捨て、そして戻す。すると
「「?!」」
なんと人形は首を傾け一礼し反転、キヤのほうへと戻っていくではないか。その結果を見たキヤは満足そうに頷く。サツキもまさかここまで完成度が高いものとは思っていなかったようで、目を見開いて驚いている
「これは……一体どういった構造でこうなるんじゃ?! 確かお前、魔石以外は普通のモンと言っとったはず!」
「これは驚きましたね……本当に回転の魔石だけで作ったんですかぁ?」
「えぇ、せっかくだし中見てみます?」
キヤが動きの止まったからくりお茶汲みメイド人形のスカートを外すと、そこには複雑に組み合わされた大量の部品が美しく噛み合っていた。サツキもからくり人形の存在はちらっと知っていたものの、実際の現物を見るのは初めてだったためボルタ達と一緒に興味深そうに見ている
「スゴいですねぇ……本当に動力は回転の魔石だけだぁ。これって、勲章モノですよぉ……?」
「他にもからくり人形には種類があって、弓を引いて的に当てたりする人形や字を書く人形もあるんですよねー。いずれは作ってみたいですけど」
「まだこんなのがあるのか?! しかも弓を引く?! 字を書く?!」
驚くボルタにキヤはなんてことなさそうな雰囲気で話す
「まだまだ正直序の口ですよ? 行く行くは車……いや、バイクを作りたいなぁ……!」
心の内の燃え滾るような熱を目に宿しながらキヤは陶酔したように呟く。ボルタは戦慄した。出会って初日に聞いた話に出てきた、『馬のいらない馬車』がいずれ作られるかもしれないのだ。しかもハズレだのクズだの言われ嫌われていた回転の魔石で。
「ふむぅ……ボルタさぁん?」
「あぁ……コイツが一番最初に出会ったのがワシで本当によかったわい」
「ですねぇ……そうだボルタさぁん?」
「む?」
なにやら二人でコソコソと話し合っているボルタとオンディス。キヤは気にも止めずからくり人形を取り出した木箱に詰めていた。サツキはそれをぼーっと見ている。と、思い出したようにサツキは呟いた
「これって調理器具も作れそうよね……ミキサーとか」
「作れないこともないぞ? 多少の試行錯誤は必要だけどな」
それでも多少の試行錯誤で再現できてしまうあたりキヤのネジはぶっ飛んでいる。機械キチなのにネジがぶっ飛んでいるとはこれいかに
「そう。あ、アレ作れない? 電動泡立て器。アタシお菓子作りが好きなの」
「ここじゃ電動っつーか魔動だな。俺鉄加工出来ないから鍛冶屋さんの協力必須だろうけど、多分出来るな。何? お菓子作ってくれんの?」
「まぁ……アンタがどうしてもって言うなら、作ってあげないこともないけど?」
「おぉすげぇなリアルツンデレだよオイちょっと拝んでいい?」
「爪の白いとこギューーってするわよ」
「ヒエッ?!」
じゃれ合いながらもからくり人形の箱詰めを終え、一息つくキヤ。と、オジサンたちが秘密の会話から戻ってきた
「キヤさぁん? 少しいいですかぁ?」
「いだだだだだやめて親指潰れる! 白いとこギューーはアカン!! イ゛ェ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!! っと、なんです? あ、からくり人形はちゃんと箱詰めしといたんで!」
「おや、ありがたいですねぇ。と、私からあなたに提案がありましてぇ」
「なんです?」
「コウタ・キヤさん。あなた、王都に工房を構えてみませんかぁ?」
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