第13話本人が気にしてないならいいのです

ジャッキ 

 重い自動車の車体を浮かせたりするのに使われる道具。キヤが再現したのはパンタグラフジャッキと呼ばれる潰れたひし形のような形をしたもので、中央を貫くネジを締めることでジャッキが縦に持ち上がっていく。現代で販売されている小さいものでも1tは持ち上げることができるが、キヤが鍛冶屋さんと一緒に再現したものは製鉄の技術もありそれほど性能は高くない。が、2つ使えば豪華な馬車を持ち上げることができるくらいの性能はある



インパクトドライバー 

 銃のような形をした電動ドライバーで、ネジ部分を回転させることで高速かつ正確にネジを締めたり緩めたりできる便利機械。動力は言わずと知れた回転の魔石で、現代で販売されているもののような取り回しの良さはないものの十分に革新的なツールである。



スチームガン 

 キヤが厳しいこの世界で生き抜くために鍛冶屋さんに協力してもらいながら開発した完全オリジナルの護身道具。手持ち式の大砲のような形で、側面に付けられた火、水、風の魔石を動力としている。それぞれの魔石を活性化させ組み合わせることで、銃口から強烈な熱と勢いを持った蒸気が発射され相手を怯ませる。殺傷性はないものの使い方によっては相手に障害を負わせることができる。弱点は使いすぎると砲身が持てないくらいに熱くなること。耐熱性の高い魔物の皮などを巻いているものの、要改良だ



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「お久しぶりですねぇボルタさん。お元気でしたかぁ?」


「おう! お前も壮健そうじゃねぇか、オン!」



 久しぶりの再会なのだろう、ボルタとオンディスは拳を突き合わせた後固く握手をし再会を喜んでいた。



「えぇ、色々と面白いこともありましたしねぇ。ねぇイガラシさぁん?」


「アタシにふるの? 知らないわよ……」



 あれから数時間後、キヤとオンディスは目的地に到着していた。お察しの通り、オンディスはボルタが呼んだ客人だったのだ。メガネを押し上げながらオンディスはキヤへと視線をずらす



「いやぁ、道中もでしたがやはりキヤさんの発想力は素晴らしいですねぇ。『この世のものとは思えないアイディア』に脱帽しきりですよぉ?」


「いやぁ照れますねぇデヘヘ!」



 この手の意味深な言葉も、全くモノを考えず話すキヤには通じていない。ちなみに手紙のやり取りの時点でオンディスにはキヤが異世界人ということは知っていた。出会いは偶然だが、オンディスはキヤが一番初めに出会った人物が昔からの友人のボルタでほっとしていた。もしも他のタチの悪いものなら確実に大変な事態になっただろう



「俺が異世界人って知ってるなら、もしかしてそっちのイガラシさんも?」


「えぇ。イガラシさん、自己紹介を」


「改めてまして、五十嵐さつき、18よ。アナタと同じ日本からこっちに来たわ」


「こちらこそ改めまして、木屋工太、24才、学生です」


「ウソつけぇ!! 学校ないだろこの世界!」


「(ツッコミが)痛いですね……これは痛い。グリ〇ィン〇ールに10点!」


「誰が獅子寮の生徒だ!!」



 キヤのボケに見事に反応しツッコミを入れるサツキ。鋭くキレのいいサツキのツッコミにキヤの口元は弧を描く。ツッコミキャラキタコレ!と



「ところでボルタさんとオンディスさんってどういったご関係で?」


「あぁそれはの、ワシとオンは昔一緒に冒険者のパーティーを組んどったんじゃ」


「あ~なるほど、だからあんなにモンスターの素材とか持ってたんですねぇ」


「ちなみにボルタさんが盾兵シールダー、いわばタンクで私が弓兵アーチャーでした。昔はよくボルタさんに助けられましたよ」



 オンディスは懐かしそうに視線を遠くへやる。あの華麗な弓術を持つオンディスと同じパーティーだったのだ、ボルタも現役時代は相当な実力者だったのだろう。



「話を聞く限り、『静寂の梟』の目と力は衰えておらんようじゃの」


「いやはやお恥ずかしい、弓を引くのも本当に久しぶりだったので背後の気配に気づかなかったのですよ。キヤさんが居なければ誰かがかすり傷を負っていたかもしれませんねぇ」



 恥ずかしそうに目線を落としながら眼鏡の弦を押し上げるオンディス。それでもかすり傷で済むのか(困惑)。この紳士ヤバイ



「現役時代ならオンがいる場所から半径数キロの魔物は数分で全滅しておったな」


「うせやろ?」


「本当に衰えてしまいましたねぇ、屋敷に戻ったら多少でも鍛錬しておかなければいけませんねぇ」



この紳士、どこぞの13かなんかなのだろうか?




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「ふむ。キヤさんもサツキさんと同じように急にこちらの世界に飛ばされてきたのですねぇ。話を聞く限りシチュエーションはソックリです」



  それから4人はボルタの家でお茶を飲みながらいろいろなことを話していた。この世界を広く冒険してきた元冒険者のボルタや、仕事・・柄各地を飛び回るようなことの多かったオンディスも異世界人についてはほとんど知っていることは無かった。



「死んでこの世界に転生ってわけでもないんですよねー。カミサマにこっちに連れてこられたって訳でもなく、どこぞの傲慢な王が勇者を召喚しようとして、って訳でもなさそうですし」


「ふむぅ……残念ながらキヤさん達が居た世界への帰還方法は現時点では心当たりはありませんねぇ……」



 オンディスが沈痛な表情で結論付けるとそれを聞いていたサツキの表情が曇る。急にこちら側に飛ばされてきたので、家族とも音信不通になっているはずだ。彼女としては元の世界に帰りたかったのだろう



「んー、気長に方法を見つけるしか無さそうですねー」


「なによその態度……アンタは、帰りたくないの?」



 あっけからんとした態度のキヤに、サツキは信じられないものを見るような目で彼を見る。その視線に気づいているのかいないのか、ぽへーんと言った雰囲気でお茶を啜るキヤ。



「ん? まぁ元の世界に俺の保護者はもう居ないも同然だし、別にどっちで暮らそうが俺はどっちでもいいんだよね。でも正直、魔石やモンスター素材で色々と作ってみたいから帰るつもりはないかな」



 飄々とした返答にさらりと重い話を混ぜ込むキヤ。そうなのだ。彼は元の世界に戻っても身内が居ない。両親が離婚した後キヤを引き取っていた父が事故で死に、父方の祖父母に預けられ、高校卒業が近付いた頃に祖父母が病と老衰で亡くなった。母とは離婚後はまったく連絡を取り合っていないので、母は父が死んだことくらいしか知らないだろう。ありきたりながらさらりと重い人生を送っているキヤだった



「あっ……ごめんなさい……」


「謝んないで、俺は気にしてないからさー。俺のことより自分のことを心配しなよ、帰りたいんでしょ? 俺もなんか情報入ったらそっちに回したりして協力するからさ」


「その……アリガト」


「どーいたましてっと。あ、オンディスさんにお土産あるんだった! ちょいと取ってきます!!」



 そう言ってドタドタと騒々しく部屋から出ていくキヤ。人懐っこい笑みを浮かべながら協力を申し出てくれたキヤにサツキの心は少し晴れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る