第12話迫真! 魔物迎撃戦!

「どうやら魔物の群れに目を付けられてしまったようです」


「(二度行った……)」


「(二度言いましたな……)」



 相変わらずメガネキラーンの状態のオンディス。メガネキャラが何か企んでいるときにメガネの反射で目が見えない描写がアニメなどであるが、キヤはそれを実際に見るのは初めてだった。魔物の群れと聞いた御者は大慌てしだすが、職業病なのか馬を撫でて落ち着かせている。


 その言葉の直後、なにやらドタドタという何かが走ってくる音がキヤの耳にも届いた。どうやら足音は東側から聞こえてくるようだ



「ま、魔物の群れですかご主人様?!」


「えぇ。この辺りの魔物にそれほど強いものはいませんが、数を揃えられると厄介ですね。おそらくゴブリン、または獣系となるとボア系かウルフ系でしょうかぁ? ところでキヤさぁん? 戦闘の方はどうでしょうかぁ?」



 チラリとキヤの方を見ながらオンディスは尋ねる。と、キヤは荷台からまたしても妙なものを取り出す。一見手持ちの大砲のようにも見えるソレはまたしても非常に奇妙でオンディスの知的好奇心を大いにくすぐるが、残念なことに今はそれどころではない



「迎え撃てはしますけど……コレ、護身用なんで殺傷力はないですよ? あともう1コありますけど、耐久ないんで過信できないっす」



 それを聞いたオンディスはニッコリと笑う



「十分すぎますよ。一先ず私が遠距離で数を減らすので、キヤさんは近づいてきた魔物をけん制してくれますかぁ? 少しの間だけでも足止めしていてくれればいいので」



「それくらいなら……イケますよ。多分……なんせコレ、実際に生きている者に向けて使うのは初めてなんで」


「そのジャッキとやらを作り出すキヤさんなら大丈夫ですよ。どうやら敵はゴブリンの群れのようです」



 オンディスは荷台から弓と矢を取り出す。年季が入っているが、丁寧に手入れされており、数多くの戦いを潜り抜けたことが伺える業物だ。御者のおじいさんを馬車の中へ避難させ、普段御者が座る部分に立ち弓を引き絞るオンディス。キヤはオンディスの右下に待機し武器を構える



「では……行きますよぉ? いいですかぁ? ホラッ!!」



 パキュ! という小気味のいい音と共に矢が放たれる。百メートルほど先で二つの影が倒れるのを朧げに見たキヤ。一般的な弓道場の射位(弓を射る場所)から的までの距離が最大60mなのだが、オンディスはそれ以上の距離から動く敵を2枚抜きしたのだ。この紳士、タダモノではない。



「スゲー……これ俺いる? もうあの人だけでいいんじゃないかな?」



 事実、ゴブリンのほとんどがキヤの武器の射程に入る前に頭や心臓を射抜かれ倒れている。だがキヤは油断せずにいつでも武器を使えるように安全装置セーフティを外しておく。と



「ちょっと! 反対側からも来るわ!! アナタは西側に回って!」



 突然馬車の中にいたはずの少女が窓を開けて叫ぶ。キヤが慌てて振り向くと、西側にある林からガサガサとゴブリンが数匹こちらに向かって走ってきている。



「ヤッベ!!」



 馬車の下の部分をスライディングで通り抜け、引き金に指を賭ける。ゴブリンは奇声を上げ、手に持ったこん棒のような太い木の枝を振り回しながら走ってきている。



「近づかれたら終わりだからな……行くぜ! 火、水、風の魔石に魔力を!! スチームガン起動!!」



 キヤが手にした小型大砲のようなものから『シュー』という音と共に煙が出始める。



「殺しはできねぇけど、悶え苦しんでもらうぜ? スチームバースト!!」



 キヤが大砲のトリガーを引くと、小型大砲から高温の蒸気がすさまじい勢いで発射されゴブリンの全身に直撃した。突然の高温の蒸気の直撃に思わずその場に転倒し悶え始めるゴブリンたち。蒸気はまだ発射され続けており、蒸気の高熱がゴブリンの肺に入り込みダメージを与え、蒸気が直撃したときに目をやられ、さらに蒸気自体が煙幕のように視界を遮る



「なにコレ、すご……」


「なんと、これは一体……」



  窓から様子を見ていたサツキとおじいさんは驚愕している。と



「あっツツ!!! アチィ!! 手が焼ける!!」



  キヤが突然大砲を地面に投げ捨て、手にフーフーと息をかけている。一応持ち手や各所に魔物の皮や布を厚く巻いているようだが、それを超えて熱が伝わってきたようである。手をひらひらさせて熱を逃がしながらキヤは不安げに呟いた



「ッつ~……頼むからコレで帰ってくれよ~頼むよ~?」



 ゴブリン数匹はまだ悶えているが、どうやらまだ完全に戦意を失ったわけではなさそうだ。武器を手にしたまま蒸気を振り払おうと腕を振り回している



「くっそー、まだヤんのか……スチームガンは放熱まだまだだし、使いたくなかったけど、仕方ないね!!」



 キヤが荷車の荷台からさらにもう一つのものを取り出し、魔石に魔力を流す。同時に蒸気の霧が晴れ、ゴブリンがよろめきながらもキヤを睨む。そして一匹の血気盛んなゴブリンが武器を構えてキヤへと突進する



『キシャァァァァ!!』


「おんどれオルルァ!!!」



ギュリリリリリ!! ズバン!



 辺りに青い鮮血を撒き散らしながらゴブリンは真っ二つに分かたれて地面に倒れた。キヤの手には高速で回転する刃が唸りを上げている



「オ゛ラ゛オ゛ラ゛来いよオラァ!! 来たヤツから残らず血ヘドぶちまけさせながら真っ二つにしてやる!! 俺がキラーでテメーらはサバイバーだゴラァ!! 立ちメメ喰らいたいヤツから前へ出てこいやオラァ!!!」



 返り血を浴びながら凄まじい怒声を上げチェーンソーを振り回すキヤ。もうなんかタガは外れてしまったようである。そのあまりの邪悪っぷりとわけの分からなさにゴブリン達はたじろいでいる。血まみれで明らかにヤベー武器持ってるやつが叫びまわってるんだから誰だってビビる。俺もビビる。



「どっちが悪役なのよ……」



 馬車の中でサツキがポツリとツッコんだ。と



キュパッ トスッ



 突然辺りに響く少々迫力に欠ける音。だがその音はゴブリンにとって恐怖と混乱を巻き起こす音だった。


キュパッ トスッ キュパッ トスッ キュパッ トスッ



 音が響く度にゴブリンが倒れ、残ったゴブリンは慌てて辺りを見渡す。馬車の上からゴブリンめがけて矢をつがえている紳士が居た。オンディスだ



「感謝しますよぉキヤさん? アナタが引き付けてくれたおかげでこちらは片付きましたよ。あとは私が終わらせますので下がっていてくれていいですよぉ?」



 そのあとは早かった。秒でゴブリンが次々と地面に倒れていくのだ。数分たたずゴブリンは全滅した



「さて、このまま放置して進むのもアリですが……後々のことを考えると死体を処理すべきですねぇ。キヤさぁん? 重ね重ね申し訳ありませんが、協力していただけますかぁ?」


「あ、イイっすよ。魔物の解体を一からするなんて久しぶりだから、楽しみっすよ」


「ホントどっちが悪者なのよ……」



 馬車内から出てきたおじいさんとサツキはげんなりとこぼした

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