第11話お前らどっかで見たような名前ばっかだなお前らな
「改めて、お礼を言わせて貰います。馬車の修理を手伝ってくれてありがとうございます。本当に助かりましたよぉ?」
「いえいえー、困ったときはお互い様ってヤツですよ。それじゃ皆さんお元気でー」
お礼を受け取るとそそくさと立ち去ろうとする青年。気持ちのいい性格がにじみ出ているが、紳士は青年との関係をそれだけで済ませるつもりはなかった。
「まぁ待ってくださいよぉ。ここで出会ったのも何かの縁。どうやら同じ方向へ行くようですし、ご一緒しませんかぁ?」
「あ、そういやお話しするって約束でしたね。いいですよー、行きましょっか! と、その前に」
「?」
キヤが停めていた荷車の車輪の中心に触れる。紳士はその行動が車輪に魔力を流し込んでいるのだと目ざとく気付く。青年はストッパーを上げ荷車を引き出した。
「よっし、それじゃ行きますか!」
「そうですねぇ」
内心紳士はこれから起こるであろうある種の革命に心振るわせていた。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
そうして一行は立ち往生から出発した。青年の話がよほど聞きたいのか、紳士は御者のおじいさんの隣に座っている。おじいさんは恐縮しきりだ。
「申し遅れました、私の名はオンディスと申します。よろしくお願いしますよぉ? ホラ、おじいさんも」
「へ、へぇ。御者をやっとります、ロレンス・ホロオットと申します。この度は本当に感謝しておりますだ」
「あ、俺はコウタ……コウタ・キヤっていいます。よろしくです、オンディスさんにロレンスさん! んで、もう一人の方は……」
キヤは馬車にのぞき込むような仕草を見せると、馬車の窓から少女が顔を出す
「……サツキ。サツキ・イガラシ」
それだけ言うと少女は引っ込んでしまった。引っ込み思案なのだろうか? 青年ことキヤはその少女の名前の形式に思わずポツリとこぼす
「日本人みたいな名前してんなこの娘な」
「ニホンジン? なんですかぁ、それはぁ?」
メガネを妖しくキラリと輝かせながらオンディスは青年をチラと見る。ゾクリとするような色気ある仕草に、なんの後ろめたいこともないのにキヤの背筋に冷気が伝う。
「い、いいえ、なんでもありませんですのことよ? デュフフフフ?」
「そうですかぁ。それで、さっき使われていた道具のことなんですが……」
「ジャッキとインパクトですか? あれは俺の故郷で使われてたのを再現したんス。近くの村の鍛冶屋さんに手伝ってもらってね、やっぱ一人だと荷車壊れた時どうにもならなくなっちゃいそうだったんで」
「その板のようなものでないもの……あれは一体どういう原理で動いているんですかぁ? それなりに魔道具に接する機会が多かったのですが、あんな魔道具は私は見たことがないのですよ」
確信を突く質問にキヤはあっけからんと答える
「アレは俺の手作りッス。原動力は主にハズレの魔石ッスよ。回転の魔石ってのが正式なんだっけ? 回転は無限のパぅワァーですよ。先にジャッキ見ます?」
そう言いつつキヤは再びジャッキを取り出して紳士に渡す。全長はおよそ1m。オンディスは受け取るとあらゆる角度からジャッキを眺め、見分する
「故郷で使ってたのはもっと小さいんですけど、馬車のサイズに合わせたらメチャメチャ大きくなっちゃいまして。まぁちゃんと丈夫に出来たんでコレでいいかなって」
キヤが作り出したのはジャッキの1種で『パンタグラフジャッキ』と呼ばれるものだ。電車の上に乗っかっているあのひし形のものに似た形のジャッキである。ジャッキは小型のものでも1tの重量を支えることができ、キヤが作ったパンタグラフジャッキは現代で手に入るものには劣るものの十分な性能をしている。
ちなみに性能が若干ダウングレードしているのはモノは知っていても作り方などわからず、ほとんど手探りで作ったためである。脳内にあるものを現実に作り出すことは至難の業なのだ。
「(それほど複雑な術式や構造は無し……いえ、1か所、この板の中心を横に貫くこの螺旋状の棒。これほど緻密な細工は見たことがありませんねぇ。これは用事が済み次第、彼を調べる必要がありそうです。彼との再会も大事ですが、多少の早出は彼も許してくれるでしょう)」
ジャッキを見分していたオンディスはふと顔を上げ周囲を見渡す。風に妙な臭いが混じり始めたのだ。
「……おじいさん、キヤさん」
「どうされましたご主人様?」
「あ、ジャッキ見終わったんですか?」
「いえ、二人とも少し停まってもらえますか? どうやら目を付けられてしまったようですよ」
「「??」」
オンディスはメガネを摘みボソリと言葉を紡ぐ。すると淡くメガネが発光し、オンディスはメガネキラーンな状態になる。その珍妙な光景にキヤは思わず吹き出す
「ブフッ?! メガネが光った?!」
「あれは遠見の魔術ですよ。ご主人様はああやって遠くを見渡すことができるのです」
「はぇ~……え? なんで急に遠くを見渡してるんです?」
「二人とも、いいですか?」
オンディスは今までの柔らかな声色から一転、冷たい鉄のように鋭い声色で二人に呼びかける。そのあまりの迫力に二人は背筋を伸ばしてしまう
「どうやら魔物の群れに目を付けられてしまったようです」
メガネを輝かせながら、オンディスは危険な色気を醸し出す声でそう告げた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます