第8話 この素晴らしい農家に革命を!(後編)
シゲオが改造荷車を注文して数日後。シゲオは相変わらず畑仕事に精を出していた。今日は休ませていた土地を耕して種をまく予定だ。あらかじめ撒いておいたシロツメクサらしき植物が畑一面を覆っている
と、少し離れた場所の茂みがガサリと動く。はぐれた獣か? まさか魔物?! 風も吹いていないのにガサガサと茂みは動き続けている。シゲオは腰につけてあった護身用のハチェットの柄に手を伸ばしつつ、警戒しながら後退していく。と、次の瞬間ひときわ大きく茂みが動く!!
ガササッ!!
「ッ!!」
「出来たよシゲオさん! キヤ印の改造荷車だ!!」
「なんやぁ?!」
ズデーン! ごきり
「あ゜!!!」
頭の両隣と両手に葉のついた枝を持ったキヤが飛び出してきた。シゲオは盛大にコケて腰を打った。ぎっくり腰にリーチがかかった。
「いやね、ホント出来心なんです。ハイ。ついやってみたかったというか、なんというか……ホントスンマセン、はい……ごめんなさい……」
イタズラはほどほどにしよう。あと普段怒らない人が怒ったらメチャクチャ怖いぞ。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「それで、モノはどこなん? 見当たらへんけど」
「お待ちを、持ってきますンで」
数分後、キヤは改造荷車を持ってきた。改造前にはなかったものが色々とついている。前輪につけられた回転の魔石や、手元にブレーキ用のグリップ、そして車輪を浮かせ留めるスタンドが増設されている。あとなぜか荷物が乗っており、ホロで覆われ隠されている
「はぇ~、色々着いとるな」
「そこそこ簡素ですけどモノはちゃんとしてますよ。何回も動作確認したんでその辺の保証も大丈夫です」
「それで、これはどう使うん?」
怒られたショックから少し立ち直り、キヤは説明を始める。
「まずはこの魔石ですね、車軸のすぐ隣についてるヤツです。これに魔力を通していただくとゆっくり回転が始まります。進むのを止めたいときは手元のコレを握っていただくと車輪の回転が弱まります」
荷車の手元にはブレーキ始動用のグリップがついておりそこからいくつかの関節を使い、車輪に押し付ける棒がついている。非常に原始的なブレーキだが、それほど速度が出せず制御も容易なのでブレーキ自体は非常に簡素だ。とはいえ念のためにブレーキは両側の車輪それぞれについている
「留めるときはこのスタンドで車輪を浮かせてください、魔力が切れれば車輪の回転が止まります。そして魔石に魔力は込めすぎないようにしてください、暴走する可能性がありますんで。スピードも込めた魔力の量に合わせて増えていきます、スピードを速めたいときは魔力を気持多めに、緩めたいときはブレーキを効かせながら進むといいです」
「はぇ~よぅ出来てるねぇ」
「正直まだまだなんですけど、最大限出来ることをやってみました!」
「持ち手も綺麗になってない? 前は細い角材やったと思うんやけど、今丸なってるな」
シゲオが荷車の持ち手を撫でさすりながら問う。荷車の持ち手どころか、全体的に非常に小ぎれいになっているのだ。それもそのはず、キヤは改造するだけでなく小型サンダを開発、それを使って荷車全体を綺麗にやすり掛けしたのだ。キヤとしては可能ならカンナ掛けをしたいところだったが、キヤにはカンナ掛けする技術もカンナそのものもなかったので諦めた。
なぜかと言えばサンダでは削りすぎて木材が小さくなりやすく強度に影響が出やすいのと、カンナ掛けした場合木材は水を弾き耐久性が増すのだがヤスリだとそういった効果は得られない。キヤもテレビ知識なのではっきりと原理はわかっていないが
「持ちづらいかなーって思って改造のついでにやりました、ダメですか?」
「いやいや、ありがたいよ! たまに木のトゲが刺さったりしてな、どうにかせんとって思っとったんよ。これはツルツルやし丸いしで掴みやすいわ、ホンマありがとう!」
「いえいえ! それでなんですけどね、荷車を受け渡しついでにお願いがありまして」
「ん? なんや言うてみて。そういやこの荷車に乗ってるこの荷物は?」
シゲオが興味深そうになにかに被せられたホロを引っ張っている。どうやらキヤの本題はコレのようだ
「シゲオさんにはソレを試してもらいたいんですよ」
『耕運機』
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
キヤがホロを取り去ると、そこから大きな車輪が二つ付いた手押し車のようなものが現れた。フォルムがどことなく似ているだけで、コレはまったく新しいものだと感じさせるには十分だったが
「ようわからんけど、なんなんコレ?」
「一言で言えば畑を半自動で耕す手押し車、ですかね」
「??」
キヤが何を言っているかイマイチ理解できていないシゲオ。それならばとキヤは実際に使っているところを見せることにする。
「シゲオさん、どこかこれから耕す予定の、空いてる畑とかあります?」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「ココが新しく耕そうとしてる畑の予定地やで。ここなら多少荒らされてもええけど」
「そいじゃやってきますね。見ててください」
キヤは耕運機の前方後方にそれぞれある魔石に魔力を流し込む。すると耕運機の前方部分が振動しだした。どうやら無事起動したようだ。それを見届けたキヤは前方部分をゆっくりと地面におろし、そのままゆっくりと前進していく。
「おぉ? おぉぉぉぉぉ?!」
あまりの出来事にシゲオは思わず声を上げる。キヤが通り抜けた後の農地は見事に耕されていた。シゲオからみればキヤは手押し車をゆっくりと押して進んでいるだけなのに、通り過ぎた後は地面が掘り起こされ耕されているという奇妙すぎる現象を目撃している。やがて畑の端から端まで2列ほど耕し終わったキヤは耕運機を止め、ドヤ顔でシゲオを見やる
「シゲオさん、どうですか? 本職の農家の人から見てこの魔道具は?」
「これ、キヤ君が作ったん?! これはごっついモン作ったなぁ……」
「まぁ発明開発はまた別の人がやったやつなんですけどね、魔石を使って再現してみました。どうでしょ? ちゃんと耕されてます?」
褒められたのが嬉しいのか、人差し指で鼻をこするキヤ。こすらなければドロはつかなかったろうに
「うん、出来とる出来とる。もうちょっと深く耕せたり出来る?」
「内部のロータリー……回転する部分なんですけど、そこの羽をイジればやれますねぇ! まぁ畝を作るのはまた別作業になるんですけど。まだその交換部品を造れてないんで、現状ソレが最大ですね。あとちょっと改造すれば麦なんかの脱穀もできますよ」
「ホンマ?! ちょっと使ってみていいかな?」
「むしろ使ってみてほしくて持ってきたんで、ぜひ使ってその使用感を教えていただきたく! 良い所悪い所余さず、データ……農家の方が使った実際の使用感や感想が必要なんです。脱穀に関してはまだ改造部品がないんで今は勘弁ですけどね」
「そういうことか。どれくらい借りれるん?」
「そうですねぇ……あと耕してない畑ってドンくらいあります?」
「この畑と同じくらいのが3つ、かな?」
「一先ず一つ……いや、畑二つほどソレ使って耕してくれますか? ウチ畑ないんで耐久実験がまだなんですよ。あとで使い方とメンテナンス方法教えるのと、それを纏めた紙持ってくるんで」
「よっしゃ、やったろ! そんでやな」
「なんです?」
「コレ正式に完成したら売ってもらえへん?」
「もちろん! いの一番にシゲオさんとこに持ってきますよ!」
こうして異世界に耕運機がもたらされた。後々これが農業革命となり、キヤとなぜかシゲオが農業史に名を残すことになる。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
『耕運機』
キヤが再現した農機具。この世界では魔石を原動力としているため魔農具。魔農具ってなんだよ(哲学)。キヤがうろ覚え知識で作ったため正直かなり粗削りではあるが、革命的な道具であることに間違いはない。ロータリー(回転することで地面を掘り起こし耕す部分)の羽を交換すればより深く耕せたり、改造すれば脱穀もできる。
『改造荷車』
キヤが手押しの荷車を魔石を使って改造したもの。電動アシスト自転車の荷車バージョン。魔石が小さいため長時間の走行はできず積載重量も普段の荷車と変わらないが、坂道などでは力強く荷運びをアシストしてくれる。ブレーキやスタンドも標準装備。コレがこれからキヤが創り出す多くの再現品の礎となる
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