第7話 この素晴らしい農家に革命を!(前編)

 ある日キヤは暗き森の近くにある村に食料品の買い出しに来ていた。キヤ特性の荷車にはお金と色々なものが積まれている。まずは野菜を買うために村の入り口近くにある家にキヤは足を運んだ。



「こんちはー、キヤでーす!」


「おぉキヤ君か、よォ来たねぇ」



 彼はシゲオ・ショージマ、この村で農家を営む中年の独身農夫である。彼の作る野菜はどれも品質がかなり良く街に出せば完売は必死、少し前は貴族とも取引があったという。ちなみに取引が切れた原因は運搬経路が非常に危険だったり、野菜の鮮度の保持に問題があったためである



「シゲさんこんちはッス! いつもの野菜セットお願いします!」


「はいよォ、ちょっと待っとってな」



 野菜を保管している倉庫へ一旦消えるシゲオ。手持ち無沙汰になったキヤが畑を見ると、どうやら畑を耕している途中だったらしい。畑を囲む柵にクワが立てかけられており、ウネが半分ほどの所で止まっていた



「……農具か。イケるな!!」


「何がイケるんや?」



 キヤが新しい道具を作ろうと計画した矢先、シゲオが戻ってきた。シゲオが野菜を運んできた荷車には新鮮な野菜が大量に置かれている。



「あぁ、新しい道具の開発をちょっと計画してました。いや相変わらず旨そうな野菜だなぁ!!」


「せやろ? 今年は雨が少なかったさかい大丈夫かと思うたけど、どうにか質は落とさずに済んだわ、アハハ。せや、今年豊作やったトマーテ一つ、オヤツにあげよか」


「マジですか! いただきます!!」



 こうしてキヤは採れたて新鮮なトマトのような野菜、トマーテを頂いた。カゴに入っていたトマーテは先ほどまで冷たい井戸水で冷やしてあったのかキンキンに冷えており、日差しの強い今日のオヤツにはピッタリだ。


 シャグリと豪快にカブり付くと、冷えた果肉とジューシーな甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。ガフガフと幸せそうな表情をし夢中でトマーテを食べているキヤをシゲオは朗らかな表情で見やり、自分も一つトマーテを食べた。


 ちなみにシゲオは知覚過敏だ。彼の目じりと眉間、そしておでこに深いシワが刻まれたのは言うまでもない



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「いやーうまかったっす! ありがとうございます!」


「喜んでくれてよかったわ。それじゃ、今回の分はそこの倉庫の陰に置いてるから持って行ってな」


「ウス! あざます!」


「はいどうも。ところで、今回結構な量やけど大丈夫? 君今日一人やろ?」


「大丈夫ですよ、俺特製の改造荷車があるんで!」



 そう、キヤが今まで引いていた荷車には回転の魔石の動力が仕込んであり、電動アシスト自転車のようなものになっている。大量の荷物もこれさえあれば一人で運搬することが可能になるのだ。欠点はといえば、使われている回転の魔石が小さいため魔力の貯蓄量が少なく魔力が切れるたびに止まるので逐一魔力を供給しなければならないところと、スピードがそれほどでない点だ。


ちなみに簡易的ではあるがちゃんとブレーキも搭載している。



「改造? ははぁ、車輪の回りがえぇんやね?」


「それもまぁありますけどね。なんとコレ、移動するのに補助が入るんですよ。だから重い物載せてても一人で運べるんス! 一回引いてみてください」


「ようわからんけど……それじゃ失礼して」



 シゲオが荷車の持ち手を握ると、キヤは魔石に魔力を少し流し込む。すると、一人では動かせないような量の荷を積んだ荷車が簡単に動き始める



「お、おぉお、おぉぉぉ! スゴいやんコレ!」


「でしょ! なんならシゲオさんの分作りましょうか?」


「ホンマ!? それは助かるわ~。お代はいかほど?」


「そうですねぇ……銀貨十枚ほどでどうでしょ?」



今更ながらこの世界の通貨について。


 この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨が流通しており、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚、白金貨十枚で大白金貨1枚となっている。


 現代の貨幣価値に換算すると銅貨一枚で百円、銀貨一枚で千円、金貨一枚一万円、白金貨一枚で十万円、大白金貨一枚で百万円となっている。



正直現代の貨幣価値に換算する必要はないのだが、この世界を見守る不特定多数の『ナニカ』のためである。




 話は戻るが、新品の木の荷車一台で大体銀貨九枚ほどとなる。この村の財政はそれほど潤ってはいないのでそこそこの値段となっているが、質のいい野菜をそこそこの値段で取引しているシゲオにとってはそれほど痛手ではない。


 が、生来の倹約癖のせいでシゲオはなかなかに渋い顔をしている。というかキヤの改造はもっと利益を出してもいいと思うのだが






「うーん、どないしよっかなぁ……」


「あ、シゲオさん。余ってる荷台とかあればそれを引き取って改造しますけど、どうします? それなら値段も下げられますけど」


「え、ホンマに? せやったら頼もかな。オンディス侯爵さんとの取引が終わってもて使つこうてない荷車があったんよ」


「それじゃ値段のほうは銀貨六枚……いや、シゲオさんの野菜好きですし銀貨四枚でやりましょう!」


「それは助かるわ、お願いします」


「それじゃ明日荷車を取りに来ますね! それじゃ今日の所はこれで!」


「はい、どうもー」




キヤは帰路につきながら荷車の改造案と、次に開発するものの構想を考えていた

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