実体験。信じるか信じないかは読み手次第。

 暑くなってきた今日この頃。

 夏に向けて、ホラー系統の話を書いてみようと思いました。

 苦手な方は、無理をせず読むのを中断、もしくは読むこと自体やめた方がいいと思われます。


 一切責任は取れませんのでご了承ください。


 それでは、私が高校一年生の時。

 夏休みだった。当時は今でいうガラケーと呼ばれるものが普及していた。

 その携帯が鳴った。

 クラスメートからだった。

 『明日暇? 一緒にバス釣り行こう!』という内容だった。

 父親が大の釣り好きだったため、釣りに必要なものは揃っていた。

 あまり気乗りはしないが、交流を深めるチャンスだと思い、一緒にブラックバスを釣りに行くことになった。


 場所は知らされていない。聞いてもいない。

 何故なら今の土地には、全く情報がないからである。

 諸事情で他県の高校へ進学することになった。

 それが可能になったのは、兄である長男と、その彼女さんが同棲している家に俺が居候をすることを認めてくれたからである。


 小中学生の時とは全く違う環境。全くわからない土地。


 場所を先に聞いても後に聞いても、一緒に行くことには変わらないのだから関係ないと思っていた。


 そして当日、待ち合わせ場所だったコンビニに着いた。

 俺を誘ってくれたクラスメートのK君と、その他に三人の男子がいた。K君の小中学まで一緒だった友達A、B、C君と紹介されて、軽く会話して意気投合した。


 「チャリで結構遠いけど、マジでかいブラックバスが釣れる池があるからさ、よし行こう!」とK君は俺を案内してくれた。


 朝九時にコンビニに集合し、出発したのは九時半頃だったと思う。


 それでも、目的の池に着いたのは一時間半後の、十一時だったのを覚えている。


 それから各々、バス釣りの準備を始めて、釣りを楽しみ始めた。


 K君とA、B、C君たちの地元トークなんかをたくさん聞いて、新鮮で楽しい釣りだった。


 昼の十三時頃には、俺以外の地元のK君たち四人がジャンケンをして、負けた人がみんなからお金を預かり全員分の昼ごはんを近くのコンビニまで買いに行くというゲームも始まった。


 わいわいと楽しい空気の釣りの時間は、あっという間に過ぎ去っていき、夏だというのに気付けば暗かった。


「もう見えないし帰るか」とA君が言った。

 みんな賛同して、片付けを始める。


 その最中の会話で、今日は一番池から近いA君の家にみんなで泊まろうという話になった。

 みんなが盛り上がり、俺にも昔からの友達のように迎えてくれて誘ってくれたが、俺には次の日のバイトが控えていた。


 朝早いのと、ここからじゃ遠いということで俺だけは一人で帰らなければいけなくなった。

 K君は俺の帰りのことまで考えてなかったと、謝ってくれたが、携帯の有料アプリでナビが入っていることを説明し、問題なく帰れるとみんなに告げてお別れをした。


 そして、携帯を開き、アプリを起動した。

 事前に設定しておいた居候先の自宅までの道程を検索し、ナビの音声ルート案内を開始した。

 音声がよく聞こえるように上着の胸ポケットに携帯を入れて、自転車を漕ぐ。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』

 周りは田んぼに囲まれた道だった。

 最初はこの音声が定期的に流れて、真っ直ぐ走っていた。


 そして、田んぼを抜けて民家の密集地帯に入った。

 片側一車線くらいの狭さで、歩道の幅なんてほとんどないような道路を、ナビの案内のもと自転車を漕ぐ。


『五十メートル先、左方向です』


 左に曲がる道なんていっぱいある。それに当時の携帯のナビはラグがひどかった。

 だから慎重に、どこで左に曲がるべきなのか、ゆっくりと走りながら探していた。

『四十メートル先、左方向です』

 更に進む。

『三十メートル先、左方向です』

 更に進む。

『二十メートル先、左方向です』

 丁度、そのナビの案内が聞こえた時には、交差点に着いていた。

 ラグがあるせいで、この道を曲がるべきところを二十メートル先と案内したんだろうと思い、胸ポケットから携帯を取り出し、ルートの確認をした。


 画面上では、遅れて自分の位置がゆっくり交差点に着いたのが見えた。


『十メートル先、左方向です』


 ん? この交差点の先には交差点らしきものは見えないぞ。


 よくルートの軌道を確認した。

 どうやらナビは、交差点を抜けた先の細い道に案内しているようだった。


 何も考えずにナビのいう通り、交差点を抜けて進んだ。


『その先、左方向です』


 そう音声が流れたが、おかしかった。

 そこは民家を囲むブロック塀の間だった。

 かなり狭く、自転車一台ギリギリ通れるような道だった。

 まさか、この道なわけがないと思い、携帯の画面を確認すると、黄色に伸びるルートがこの細い路地に続いている。

 その時の俺は、深く考えもせず何かの近道かなにかだと思いナビの通りに進んだ。


 それからは忙しいほど、ナビの音声が右折だの左折だの言って、細い路地を迷路のように進まされた。

 あまりの人気ひとけのなさと、民家に明かりが付いていない暗さとで不安になっていた。

 だが戻るにも結構進んだため戻れない。


 よく見ると、携帯の充電も残りわずかになっていた。

 意を決して、携帯の充電が切れないうちにナビ通りに進んで、自分でもわかるくらいの道路に出ようと考えて自転車を漕いだ。


 かなりの距離を漕いだ気がした。

 時間を見ると、夜の二十三時近くになっていて、あっという間の事に焦った。


 携帯の充電も危うい。結構疲れていたが、なんとか進んでいると、ナビが反応した。


『その先、右方向です』

 車一台は通れそうな道に出た。かなり窮屈な道ばかりを通されていた為に、少し開放感があった。

 そしてナビのいう通りに右方向に進んだ。


 少し進むと、民家も周りになくなり、ただの雑木林ぞうきばやしの間の道を走っていた。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』


 脇道もない道を、ただ真っ直ぐ進んでいく。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』


 それでも進む。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』


 いつまで真っ直ぐ行けばいいんだと思っているところに、目に留まるものがあった。


 進む道の先、右端に小さなお地蔵様がポツンと佇んでいる。


 少し異様だった。

 ここで本格的に恐怖を感じたのを覚えている。

 雑木林の間から差し込む微かな月明かりのおかげで、暗いけど見えないわけではない。


 一刻も早くこの場から離れたくて、自転車を必死に漕いだ。


『このまま道なり、真っ直ぐです』


 充電の心配と、ルート確認のために携帯を開いた。


 黄色に伸びるルートは、ひたすらに真っ直ぐ伸びていた。


 もうこのまま真っ直ぐ進めば、大きな国道かどこかに出るだろうと自分に言い聞かせて、またひたすらに自転車を漕いだ。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』


 聞き飽きた案内にうんざりしながら、自転車を漕いでいると、道の突き当たりに着いてしまった。


 雑木林に月明かりが吸われて影になっている。

 真っ黒い影。

 この先には進めない。そう思った矢先。


『そのまま道なり、真っ直ぐです』


 いやいや、なんなんだこのナビは。

 変な道を通すわ、結局行き止まりに着いても真っ直ぐだ? ポンコツナビだ。金払って損した。そう苛立ちながらも携帯を取り出して、どこかに真っ直ぐ進む道がないかよく探そうと思い、携帯のライトをつけた。


 辺りを照らして見えたものは、右も、左も、目の前も、雛壇状に“お墓”がびっしりと建っていた。


 俺は、危機感を覚えた。

 そして直感だが、


 そう確信した。

 これは危険だ。

 早くここから離れなければいけない。


 その一心で、自転車を反対方向に向けて全速力で漕いだ。

 あのお墓たちから遠ざかるように。

 早く遠くまで離れるために。


『ルートから外れました。リルート検索を開始します』


 そうだ。元はといえばこのナビがおかしい。


『リルート検索が終了しました。その先、左方向です』


 左……? 目をやると、雑木林の中に獣道のようなものが通っていた。


 ここに曲がれっていうのか……?


 恐る恐る携帯を開いた。


 案内を示す黄色のルートを確認した。


 黄色のルートは、ここを左に曲がり、その先を左に曲がり、またその先を左に曲がり、今いるこの道まで戻ったら、右に曲がり、真っ直ぐお墓たちに案内する。というルートだった。


 このナビはもうダメだと悟った。信じてはいけないと、電源を切った。


 信じられるのは自分自身だけ。道がわからなくてもいい。ただ今来た道をひたすらに戻った。


 しばらく漕いでいると、あの佇むお地蔵様が見えた。

 そしてそのお地蔵様の前で、赤いジャンパーを着た幼い女の子と、青いジャンパーを着た幼い男の子が、笑いながらクルクルと回り追いかけっこをしているのだ。


 俺は、何故か話しかけないといけないという事で頭がいっぱいになった。


 こんな夜更けに、それもこんな暗い所で子供二人で何をしているのか?

 お父さんやお母さんは、どうしたの?


 そう声をかけなければいけないと思い込み、自然とお地蔵様に近づこうとしていた。


 だが、ふっと母親から聞かされていた言葉が脳裏に蘇った。


「お地蔵様は、いろんなお役目を果たすために建てられたのだから、そのお地蔵様がどんなお役目を持っているのか知らないうちは、むやみやたらに近づいたり、手を合わせたりしてはいけないよ」という言葉だった。


 それを思い出した瞬間、違和感に気付いた。


 まず、こんな夜更けに子供二人が笑顔で笑い声をあげながら追いかけっこをしている事自体が異常だと。


 そして、近づけば近づくほどはっきりしていく意識の中で、もう一つ気付いた。


 笑顔で笑い声をあげながら追いかけっこをしていると思い込んでいるだけで、という事実に。


 ただ自分が見えているのは、影で顔が見えない赤いジャンパーを着た子供と、青いジャンパーを着た子供が、無音の中でグルグルと追いかけっこをしているという事だけ。


 これは……害はないだろうけど、無闇に関わるべきではないと直感で判断して、その横を自転車で駆け抜けて、ひたすらに逃げた。


 真っ直ぐ、真っ直ぐ、真っ直ぐ。

 道が途切れないうちは真っ直ぐ走り続けようと自転車を漕ぎ続けた。


 すると人工的な明かりが見えた。

 行き交う車の光だった。

 

 もう少し。もう少し。


 なんとか、雑木林を抜けることができた。


 そこで目にしたのは、大きな国道と信号。

 まばらな車たちのライト。

 そして、今日の朝の集合地点になっていたコンビニだった。


 正直、そのコンビニの明かりを見た時、泣きそうになった。


 もう大丈夫。助かったと、心から安堵した。


 疲労していたのもあり、信号を渡りコンビニに入った。

 少しの間だけ明るい光を浴びていたかったから、興味のない雑誌なんかを立ち読みするふりをして時間を潰した。


 そして、心が落ち着いた所で、また自転車に跨がり家まで自力で帰った。


 居候先の兄と兄の彼女さんは同じ職場で、出張メインの仕事ということもあり、家に帰っても一人のままだった。


 ただ、あんな経験をしてしまった夜なんて怖くてしょうがない。

 もう電気を消して寝ることなんてできるはずもなく、リビングの電気をつけたままテレビを見て朝まで一睡もすることなく、次の日バイトに向かった。


 その後特に何もなかったため恐怖も薄れ、今となっては、良いネタ話しである。


 実際このことを喋ってみると、「話盛り過ぎ」「オチはw?」などと馬鹿にされることも多かったため、最近では人に話さなかった、私の実体験の話であった。



 最後まで読んでくださった方々、誠にありがとうございます。

 それでは失礼します。

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