勇気を出したのに

 青い春なんか遠い世界の物語で、LED色の箱の中でサービスをする。


「お疲れーっす」という終了の合図に心躍る。

 愛想よく挨拶し、五分で帰る用意をして箱の外に出た。


 外は暗く、湿っぽい。所々濡れているようだ。

 アスファルトの匂いが微かに香る。

 ぬるい風に腕を撫でられると、ベタつくようで不快だ。


 携帯が鳴った。女バスの子からだ。

 他愛のない会話の中で、来週の花火大会に誘った。

 条件は、相手の親も一緒。ということだった。

 俺は臆病だ。みんなは、こんなハードルを超えているのかと聞きたくなった。

 だが聞く相手がいない。


「おっつー」と登場したのは、さっきまで一緒に働いていた同じ高校の女子だ。

「なにかあった?」その言葉に、つい甘えてしまった。


 話を聞いた彼女は、俺の手を取り、手首を握った。

「うーん、心肺停止状態ですね」

「いや、生きてますよ」

 何やってるんだこの人は。

 すぐにふざけて、相談したのがバカだった。


「ねね、握って?」

 俺は彼女の手首を握った。

「私さ、血通ってる?」

「当たり前でしょ」

「そっか、良かった」

 そのやりとりが馬鹿馬鹿しくて、一緒に笑うと、少し救われた。

 だが彼女の俯く横顔は、少し赤らんで見えた。

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