起きると、彼女は歌っている。

 耳障りな音。

 苛立ちを抱えて手を伸ばす。

 何度も触れた、固く冷たい感触。 

 裏のスイッチを下げて、目覚まし時計の音を止めた。


 健康的な光と車の走る音が、カーテンの隙間から入ってくる。

 思わず、窓辺に背を向ける。

 ベッドで丸くなり、虚しく枕を抱きしめる。

 枕の向こうの壁には、微かな振動が伝わっている。

 今日は水曜日だとわかった。


 心臓の音でよく聞こえない。

 今日は一段とうるさい。

 お前じゃない。俺じゃない。俺の音なんか消えてしまえばいいのに。

 手が震える。呼吸は落ち着いている。

 なのに鼓動は早い。

 深く吸えばむせる。ゆっくり吐けば震える。


 玄関から音がした。

 音が激しい。

 早く行けよ。

 行ったか?

 行ったようだ。


 バイクの音が遠くなる。


 また壁の向こうの振動を聴く。

 何かはわからない。

 ただ歌っているんだろう。

 努力しているのかもしれない。


 唐突な衝動に駆られて、ベッドから降りた。

 床に転がるギターケースをクローゼットに押込んだ。

 鏡に映る自分は、何故か泣いていた。



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