向日葵

「ねえ、なんで離婚してくれないの?なんで私じゃだめなの?」

もういいと、黒河が修平の車から降りようとした時だ。あっ、と修平は驚いた。総務の村上と視線がぶつかる。まずい、そう思ってる間にもこちらにもずいずいと近づいて来て、車の横でかがんで口を開く。

「こんばんは。不思議な場所でお会いしますね。」

終わった。会社から離れた駅前で何してるんだ、口には出さなくとも目がそう訴えている。


「ねえ、俺じゃだめかな。」

「あのね、離婚はするかもしれない。」

「えっ」

峯田は息を呑んだ。

「けど、だからって怜央さんの気持ちには応えられない。」

「じゃあなんで」

さっきキスをしたの、とは聞けなかった。

カップから上る湯気を目で追いながら、知られないように視線を動かす。それは歩美も同じでカップを握りながら会話を探した。


「怜央さん、あの絵って」

歩美が指を示したのは大きなキャンバスに描かれた後ろ姿の女性の油絵だった。

「ああ、学生時代にね描いてて。最近また始めたんだ。」

「綺麗ね、向日葵畑。想像で書いたの?」

「いや、小さいときに夢で見たんだ。ずっと覚えてて、忘れたことなんてなかったんだけど。最近になって残しておかなきゃいけない気持ちになって。」

へえ、と歩美は相槌を打つ。

「まだ5才か小学校に上がるころだったと思う。当時の俺はそんなに身長が高くないはずだから、父に肩車をしてもらってたんだと勝手に考えてたんだけど。」

「その年なら1メーターくらいだものね。」

「さすが母。顔は見えないんだけどその女性の後ろ姿が妙に印象的でね。」


 この時は歩美も峯田もまだ知らない。向日葵の花言葉を。

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嘘つきとの上手な暮らし方 東雲みさき @out_in_out

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