第92話 奔放
「うわぁ……すごい……」
思わず俺はそう呟いてしまった。
店の奥にはさらにガラクタ……ではなく、商品が所狭しと並んでいた。並んでいたというよりも雑然と置かれていたという方が正しいような気もするが。
「まぁ、飲み物でも飲んでよ」
「飲み物?」
飲み物って……俺もムツミも人造人間だろうに。飲み物なんて呑む必要があるのだろうか?
「ほら。メンテナンス用オイル。大したものじゃないけど、飲むとスッキリするよ」
そう言ってムツミはコップになみなみと注いだ緑色の液体を差し出してきた。
オイル……え? これは飲み物ではないはずだ。機械を動かすための燃料になるようなもので……
「……えっと、これ、飲めるんですか?」
「はぁ? 当たり前でしょ? 飲めないものなんて出さないわよ」
少しイラッとした様子でそういうムツミ。実際、ムツミは何の問題もなくオイルを飲み込んでいる。
俺も少しそれを口に含んでみようとしたが……ビリっとした刺激臭でそもそも口の中に含むなんてこと、絶対にできないことを理解した。
「す、すいません……俺は遠慮しておきます」
「はぁ? いらないの? じゃ、ウチが飲むわよ」
俺はムツミに緑色の液体を手渡す。まるで問題ないという感じでムツミはそれを一気に飲み干したのだった。
「……で、アンタはホントはあそこで何してたわけ?」
と、ムツミが液体を飲み干すと、ニヤニヤしながら俺にそう訊ねてくる。
「え……いや、俺は迷っていただけで……」
「迷う? 馬鹿いうんじゃないわよ。迷ってあんな場所に出てくるわけないでしょ? ウチの予想ではね……あの場所には人間がまだ存在していた時代の遺物がたくさん眠っているのよね……アンタもそう思うでしょ?」
眠っているというか……人間が使っていた研究所を、人造人間が勝手に使っているのだが。
そういえば、クロミナはあの後どうなったのだろう。俺は彼女を見捨ててきてしまった……あのクロトが自分に反逆したクロミナを放っておくとは思えない。
「……ちょっと、アンタ。何暗い顔してんの?」
「あ、いえ……ちょっと、仲間のことを思い出していて」
「仲間? 何? 誰かと一緒にいたってこと?」
「まぁ……俺以外に二人と一緒にいたんだけど……二人共どこかに行っちゃって……」
俺がそう言うとしばらくムツミは黙っていたが、なぜかいきなりポンと手のひらを叩くと、大きく頷く。
「よし! じゃあ、ウチがアンタの仲間を探してあげよう!」
「え……いや、だって、どこに行ったか全然わからないんだけど……」
「フッ。大丈夫。ウチ情報網を舐めないで。付いてきなさい!」
そう言って、ムツミはまたしても店の外に出ていってしまった。
サヨやクロミナとは違う……なんというか、まるで自分が人造人間であること意識していない……それこそ、人間のように奔放に振る舞っている。俺にはムツミのことがそう思えてしまった。
「ほら! 早く!」
「わ、わかったよ……」
ムツミの声にどやされ、俺も店の外に飛び出していったのだった。
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