第83話 諦め
どうにも……理解が追い付いていない。
俺は人造人間だったということか。いや……なんとなくだが、どこかで理解はしていたような気もする。
どこで気付いたかなんていうのはわからない。だけど、今まで接してきた人造人間達の反応を思い返してみれば、なんとなくわかってくる。
それに、海に沈んだ時に見たあの夢……あれは夢ではなかった。俺の記憶……いや、人造人間の記憶データだったのだ。
だから、理解はできないが、ショックを受けなかった。
それにしても……どうして、クロトは俺のことを拘束しているのだろうか。
「……で、なんで人造人間である俺は拘束されているんだ?」
「言ったでしょう。アナタは私の理想そのものである、と」
クロトはなにかの計器をいじっている。どうやら、俺の質問にまともに答える気はないようである。
「そういえば……クロミナは?」
「あの子には待機してもらっています。いずれ、アナタの内部構造を分析するのに彼女に手伝ってもらいますから」
「内部構造? 俺を……分解するのか?」
「とんでもない! 分解などしてしまったら、この私でももう一度アナタを組み立てることなどできませんよ。少しずつ部品を外すなどして、アナタが一体どんな作りなのかを解析するのです」
「……俺を解析なんてしてどうするんだ?」
すると、なぜかクロトが頭部を俺に近づけてくる。その青い光がより強くなって俺のことを照らしてくる。
「夜明けの時代を迎えるためです。アナタはそのための礎となる……それはとても光栄なことなんですよ」
そう言ってまたクロトは計器いじりを再開した。もう何か質問しても答えてくれないような感じである。
と、俺は今一度視線だけを動かす。この部屋はどうやら、硝子張りの部屋のようだ。
「……あれ?」
見ると、部屋の外に……見覚えのある人影がある。それは紛れもなくクロミナだった。
クロミナはいつも通りの無表情で俺のことを見ている。それはまるで、これから分解されるロボットを哀れな存在として眺めているようにしか俺には思えなかった。
いずれにせよ、これで俺の旅は終わりか……終わりはこんな体たらくだが、途中までは悪くなかった。
一体サヨはどうしているのだろう、無事だろうか……そんなことを考えても動けない俺はどうしようもない。
「少し待っていて下さい。クロミナと話してきます」
クロトはそう言って部屋を出ていった。
確かこういう状態を表す言葉があったような……
「……あぁ、鯛だ。まな板の上の……鯛」
思わず引きつった笑みを浮かべてしまいながら俺は諦めをつけたのだった。
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