第82話 真実
「……ん……あ、あれ……俺……どうなって……」
意識を失ってからどれくらい時間が経ったのだろうか。俺は目を覚ます。
俺はどこかに横にされているようだった。目の前にはどこかの部屋の天井が見える。
視線だけを動かしても暗くてよくわからない。ここは一体どこだ……というか、俺、あれからどうなって――
「そうだ……クロミナは……」
「おや。機能が回復しましたか」
……聞いたことのある声が聞こえてきた。何か耳にまとわりつくような……良い声のはずなのに、気味の悪い声だった。
「……な、なんで……君がここに……」
俺の視線の先には黒い巨体が動いているのがわかる。そのシルエットは忘れもしない……
「……クロト」
「お久しぶりです。ナオヤ」
自分がどこにいるかという疑問よりも、なぜクロトが俺の目の前にいるのかという疑問の方が俺の中で大きくなる。
「なぜ、私がここにいるのか、気になりますよね?」
俺の心を見透かしているかのように、クロトは先にそう話した。
「……君は街の管理者のはずじゃなかったか。なんでここにいるんだ?」
「もちろん……アナタに会うためです」
「俺に……会うため?」
俺は起き上がろうとしたが、何かに拘束されているようで動けなかった。クロトの方が横にされている俺の方に近づいてくる。
「えぇ。言ったでしょう? 私達は再会すると」
「……それは覚えている。だけど、一体ここはどこで、俺はどうして拘束されているんだ?」
すると、クロトは黙ったままでその青いライトが輝く頭部を俺の方に近づけてくる。青い光は不気味に俺の顔を照らす。
「ここは私の研究室です。そして、アナタが拘束されているのは、アナタが私にとっての理想そのものだからです」
「理想……俺が? 前も言ってたけど……俺はただの人間だ。君にとっては人間が理想だっていうのか?」
俺がそう言うとクロトは顔を離す。表情はわからなかったが、なんとなく、俺のことを哀れんでいるような感じを受ける。
「アナタは本当に素晴らしい。ここまで自分のことを完璧に人間だと思い込ませるのには、とても複雑な過程が必要だったことでしょう」
「……何を言っているんだ? 俺が……自分を人間だと思い込んでいるって……」
クロトは少し離れた場所にある椅子にその巨体をゆっくりと腰掛けて、俺の方に青い光が灯る頭部を向けてくる。
「私の正式な名称はL型人造人間9610です。L型人造人間の中で後期型でしてね。既に人間が人造人間との共存を諦めた頃、人間に代わって人造人間を製造する存在として製造されました」
L型……俺が海で溺れていた時に夢に出てきた言葉だ。
「そして、アナタもL型人造人間です。正式名称はL型人造人間0708。アナタは前期型……まだ人類が人造人間との共存を諦めていなかった頃の、最も人間に近い人造人間です」
無機質な黒い巨体に淡々と告げられた真実は、思いの外、俺にそこまでの衝撃を与えなかった。
しかし、俺はこの時明確に理解した。
俺は、自分のことを人間だと思い込んでいた人造人間だったのだ、と。
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