第80話 荒野

「……ねぇ、クロミナ」


「はい、なんでしょうか」


「……ここって、本当に大陸なんだよね?」


 俺は立ち止まって思わず訊ねてしまった。


 それも仕方ない。周りには……何もないのだ。これまで俺達が辿ってきた道が整備されているわけでもなく、電灯もなく、暗い荒涼とした道が延々と続く。


 照らす光は月の光だけだ。なにもない荒野に俺とクロミナだけがいるのだ。


「えぇ。船から流された時間、そして、進行方向からして間違いなく我々は海を越えた大陸にたどり着きました」


「……じゃあ、この先に何があるの? 俺には何かあるようには思えないんだけど……」


 俺がそういうとクロミナが遠く見つめている。まぁ……クロミナにたずねても駄目か……そう思って、俺は今一度歩みを始める。


「国です」


「……え?」


 クロミナの言葉を俺は理解できなかった。国……クロミナは、国と言ったのか?


「国って……それは……大きな街ってこと?」


「いえ。街の集合体とでも言いましょうか。それが国です」


「それが……この先にあるっていうの?」


「えぇ。このまま進めばあるはずです」


 そこまで聞いて俺は道の先に何かが在るということを聞いて安心するとともに、とてつもない疑問が浮かび上がってくる。


「……なんで、クロミナはそんなことを知っているの?」


 俺が訊ねてもクロミナは表情を変えること無く、俺の事を見ている。サヨと話しているときには感じないものだ。


「そこが、私の行きたい場所だからです」


 クロミナの言葉を聞いて俺は思い出す。クロミナが旅に同行することになって初めて言っていた内容……クロミナは最初から国に行きたかったのだ。


 ということは……最初からクロミナは海を渡るつもりだったのか? でも、あの段階で船があるなんてわかったのだろうか? それとも、クロミナには海を渡ることが出来る確信があったのだろうか……


「ナオヤ」


 と、いつのまにかクロミナがすぐ近くにまでやってきていた。俺は思わず後ずさってしまう。


 その無機質な瞳は一体何を考えているの変わらない……初めてその時俺はクロミナのことを……怖いと思ってしまったのだった。


「どうしました? 回答になっていませんか?」


「え……いや、そんなことはないよ。国、ね……わかった。じゃあ、行こう」


「えぇ。そこまで遠い距離ではありません。行きましょう」


 そんな嫌な気分になりながらも、俺達は再度歩みを始めるのだった。

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