第76話 豹変

 海に出ると順調に船は進みだした。赤い海の上、暗い夜空の下を船が進んでいく。


「……これで、向こうの大陸に行けるんだな」


 サヨが前方を眺める俺に話しかけてくる。まさか本当に行けるとは思えなかったが、船が進んでいることを考えると、確かに大陸へと近づいているのだろう。


「それにしても……クロミナは大丈夫なの?」


 俺は肘から先がなくなってしまっているクロミナの腕を見ながら思わず訊ねてしまった。


「はい。これくらいは問題ありません」


 クロミナは相変わらずの無表情でそう言う。まぁ、本人が大丈夫だと言っているのだから、それ以上は深く聞けないのだが……


「おい! ちょっと!」


 と、操舵室から船長の声が聞こえてきた。


「何かあったの?」


「悪いんだが、ちょっと確認したいことがある。力が強いヤツ、誰か手伝ってくれ」


 俺とクロミナは思わずサヨのことを見てしまう。


「……なんで私なんだよ」


「それは……やっぱり、ね」


「はい。私も同感です」


 サヨは何か言いたそうだったが、渋々操舵室の方に向かっていった。


 しばらく何も音がしないので不審に思ったが……その後、ゴトンと何かが床に倒れるような音が聞こえてきた。


「なんの音だろう……修理していない部分でも見つかったのかな?」


「いえ。そうでないと思われます」


 と、なぜかクロミナが一歩俺の前に立つ。


「……クロミナ?」


「警戒しながら、付いてきて下さい」


 そう言ってクロミナは一歩ずつ歩き出す。言われたとおりに俺はその後をついていった。


 操舵室の中を覗き込むと……なぜかサヨが倒れていた。


「え……サヨ!?」


 思わず俺はサヨに駆け寄ってしまう。俺が肩を叩いてもサヨは返事をしてくれない。


「なんで……こんな……」


「そりゃあ、高圧電流を喰らったからだよ」


 背後から声が聞こえてきて、俺は振り返る。


「ひっひっひ……お前らには感謝しているんだぜ? 船を修理してくれて、ようやく俺の念願が叶った。それだけじゃねぇ……俺に、金になる土産物まで持たせてくれるんだからな」


 視線の先にいる船長は邪悪な笑みを浮かべて、警棒のようなものを持っている。


 その警棒はバチバチと電流を帯びているのが、俺の目でも見て分かった。


「土産物って……一体……」


「そりゃあ……お前たちのことに決まっているだろうが。久しぶりに見るぜ、ここまで状態の良い人造人間には。だから……お前達を売って、金にするってことよ」


 船長はバチバチと音のする警棒を持ってこちらに近づいてくる。


 お前達って……いや、俺は人間だからいいとして、人造人間を売るってどういうことだ?


「売るって……だって、もう人間はいないんだ。一体どこに売るっていうんだ?」


 俺がそう聞くと、船長はキョトンした顔をした後、思いっきり馬鹿にした調子で笑いながら俺のことを見る。


「お前達……ほんとに知らないみたいだな、向こうのことを。人間がもうこの世界にいないってことは俺にも分かってんだよ。となれば、売る相手は一つだろうが」


「……まさか、それって――」


「そのまさかだよ。人造人間に売りつけるに決まってんだろうが」

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