第73話 廃船

 船長が階段を降りていくのを俺達もついていくだけだった。登ってきた時はそれなりに長く感じた階段が、降りる時はそこまで長く感じなかった。


 そして、今一度俺達は灯台の外に出た。


「こっちだ」


 船長は海岸沿いをどんどん進んでいく。赤い波がこちらに打ち寄せてくる。


「あれを見ろ」


 そう言って船長は立ち止まった。見ると、目の前には……浜辺に打ち上げられている船があった。


「え……これって……」


「俺の船だ。随分前にこれに乗ってやってきた。やってきたのはいいが、ここでコイツはもう何十年もこのままだ」


 なるほど。確かにかなり年季が入っている……というか、ボロボロの感じの船だ。


「……修理とかはしないのか?」


 サヨが訊ねると、船長は首を横にふる。


「機関のパーツが必要なんだ。コイツにはな。そんなパーツ、今のこの世界にはどこにもないだろ?」


 ……言われてみればそうか。つまり、この船は存在はしているが、動かないということになる。


 そうなると……俺達もこの海の向こうに行くことは出来ないのだろうか。


「すいません」


 と、いきなり言葉を発したのは、クロミナだった。


「ちょっと、その部分を見せてもらってもいいですか?」


「あぁ? あのなぁ……部品がそもそもないんだよ。見せたって直せるわけ無いだろ?」


「見せて下さい」


 クロミナが嫌と言わせない様子でそう言った。船長も面倒くさそうだったが、渋々クロミナを船の中に案内した。


「……アイツ、直せるのか?」


 サヨが俺に聞いてくるが……俺にだってわからない。まぁ、あのクロトが作った人造人間だし、もしかすると、直せる技術があるのかもしれないが、パーツがないとなってはどうにも――


「お、おい! 何やってんだ!?」


 と、船の名から船長の声が聞こえる。俺達は思わず顔を見合わせてしまう。と、不安になってからしばらく後、船長とクロミナが船から出てきた。


「え……? クロミナ、その腕……」


 船から出てきたクロミナは……なんと、右腕が失くなっていた。


「問題ありません。これで船を修理することが出来ました」


「え……修理って……だって、パーツが……」


「私の腕に存在するパーツを、機関の修理に充てました。おそらくあのパーツならば完全には修理できなくとも、しばらくはこの船を動かすことができるはずです」


 そう言ってクロミナは船長の方を見る。


「見た所、かなり傷んでいるようです。補修はできますか?」


「え……あ、あぁ! すぐにでも直してやるぜ!」


 そう言うと船長はいきなり水を得た魚のように元気に走り出した。


 俺とサヨは今一度クロミナの失くなった腕を見てしまう。根本から引きちぎったようで、クロミナはまるでためらいがなかったようだ。


「これで、旅を続けられますね」


 クロミナはいつもと同じように無表情にそう言ったのであった。

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