第72話 船長

 それから俺達は灯台を登っていくことになった。灯台の中には頂上まで続く階段が延々と続いている。


「え……これ、昇るのか?」


 俺は思わずその段数にうんざりとしたしまう。


「なんだ。こんなの簡単だろう?」


 サヨは大したことないという顔で俺のことを見ている。いや、たしかに人造人間ならば、こんなの簡単に昇れるのかもしれないが……


 かといって、ここで文句を言っていても仕方がない……俺達は階段を昇ることにした。


 階段を登ってみると、意外と疲れは少なかった。段々と頂上に近づいていくのが分かる。


「ここ、まだ使われているみたいですね」


 と、クロミナがぼそりとそういった。


「どうして、そう思うんだ?」


 サヨが不思議そうにそう訊ねる。


「この階段に埃が積もっていません。おそらく、何者かがこの階段を上り下りしているのでしょう」


 クロミナの分析に思わず俺も納得してしまった。そうなると、灯台の上には誰かがいるってことだ……いや、まぁ、明かりが付いていたから誰かがいるのは間違いないのだが。


 といっても、それはおそらく人造人間ではあると思うが……


「さぁ、後少しだ。全部昇りきろう」


 自分を励ますように俺は階段を昇りきった。さすがに少し疲労感があった。それに比べてサヨもクロミナもまるで疲れていないようであって……少し羨ましかった。


 階段を昇りきると、小さな部屋のような場所にたどり着いた。そこかしこにいろいろなものが散乱している。


「あれでは?」


 クロミナが指差す先には人影が在る。見ると、灯台が明かりを伸ばす先を見つめるかのように、窓辺に何者かが立っている。


「……なんだ。お前達」


 と、それと同時にその人物は振り返った。髭面の中年男性……なんだかガラの悪い人物であった。


「あ……えっと……アナタは?」


 俺が恐る恐る聞くと、男性はやる気のない顔で俺達を見る。


「俺は……『船長』だ」


 低い声で、その男性はそう言った。


「え……船長?」


「あぁ……なんだ。俺に用事か?」


 思いがけない出会いに思わず俺は驚いてしまう。この人物が本当に船長だというのなら……ヒフミ老人の言っていたことが真実だとするならば……


「あの……俺達……海の向こうへ行きたいんです」


 思わず俺はそう言ってしまった。すると、船長は少しだけ目を大きく開く。


「……フッ。馬鹿だな、お前」


「え……ば、馬鹿って……なんで、そんな……」


「海の向こうなんて行けやしない。だから、馬鹿だって言っているんだ」


 すると、船長はいきなり歩き出した。どうやら階段の方に向かっていくようである。


「付いてこい」


 そう言って階段を降りていく。登ってきたばかりの俺達は少し戸惑ったが……かといって付いていかないわけにもいかない。


 俺達はそのまま船長の後を追ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る