第59話 豪邸
「……あれ。なんだ?」
夜道を歩いていると、サヨが前方を指差す。すると、周囲の風景にまったく溶け込まないような建物見える。
それは……廃墟ではないのだ。まるで誰かが今も管理しているかのように綺麗な外壁に、窓も割れていない……そんな豪邸が少し先に存在しているのがわかる。
「誰か住んでいるのかな……」
「もしかして……人間?」
サヨがそういうが……その可能性は低いだろう。だとすると人造人間が住んでいることになるのだが、あそこまで整備された住居に人造人間が住んでいるものだろうか。
今まで見てきた感じだと人造人間というのは、あまり自身の住居が美しいとか、そういうことにあまり気をかけないようだった。だとすると、あの建物には……もしかすると人間が住んでいたりするのだろうか?
「確認しましょう」
そう言って、先に歩き始めてしまったのはクロミナだった。結局、流されるようにして俺もサヨもクロミナについていくことにする。
近づくにつれて、その建物がまるで富豪が住むかのような豪邸であることがわかった。建物だけではなく、庭も手入れが行き届いている。
「おいおい……ここだけなんだか……時代に取り残されてないか?」
ある意味、サヨの言うことも正しいと思った。と、豪邸の中に入るための門は開いている。
「えっと……入っていいのかな?」
「ええ。勿論でございます」
いきなり隣から声が聞こえてきて、俺は驚いてしまった。サヨも同様に身構える。
「失礼。お客様がいらっしゃるのが確認できましたので、お迎えにあがりました」
「え……お客様って……」
「はい。皆様のことでございます」
思わず俺とサヨは顔を見合わせてしまう。俺たちに話しかけてきていたのは……所謂メイドの姿をした女性だった。
メイドという職業が人類が存在していた時に存在していたのは知識として知っている。しかし、それが今目の前に現れるとは思わなかった。
「アナタは、何者ですか?」
俺たちが困惑している間にもクロミナは淡々と彼女に質問をした。すると、メイドも彼女もクロミナと同様に澄ました表情で俺たちに恭しくお辞儀をする。
「失礼致しました。ワタクシ、M型人造人間の0030と申します。お嬢様はワタクシのことをミレイとお呼びですので、皆様もミレイとお呼び下さい」
M型人造人間……やはり彼女も人造人間だったようだ。しかし、お嬢様って……この豪邸の主のことだろうか。
「M型人造人間……あぁ。金持ちが購入していたタイプのヤツか。私はサヨ。A型人造人間だ」
「A型……戦闘用の人造人間ですか。お二人は?」
そう聞かれて俺は少し戸惑ったが、クロミナが明らかに自己紹介をしようとする気配がなかったので、俺が先人を切る。
「えっと……俺はナオヤって言います。一応……人間です」
と、俺がそう言うとミレイはそれまでの澄ました顔から一変して大きく目を丸くしていた。しばらくなぜか驚いた様子を見せていたが、小さく頭を下げる。
「……そうですか。人間の方がこの豪邸にいらっしゃるのは随分と久しぶりのことです。ようこそ、いらっしゃいました」
「あぁ……どうも。で、こっちはクロミナ。彼女は人造人間です」
「どうも」
クロミナの挨拶にもミレイは小さくお辞儀をする。
「では、皆様。どうぞ、お屋敷にお入り下さい」
「え……いいの?」
「はい。さぁ、どうぞ」
そう言って、ミレイは屋敷の方へ向かっていく。さすがに入っていいのか疑問に思ったが……クロミナが言われた通りにミレイに付いていってしまった。
「……なんとなく、嫌な感じがするな。この屋敷」
と、サヨが屋敷を見ながらそう言った。俺も……なんとなくそう感じてしまった。だが、とりあえず俺たちもそのまま屋敷の中に入っていったのであった。
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