第55話 神

 そして、礼拝とやらが始まった。神父は壇上の上で、天井近くの上に固定されている十字のシンボルに向かって手を合わせている。


 一体何をしているのかわからなかったので、俺は思わずサヨを見てしまう。サヨもあまり理解できていないのか、苦々しい顔をしている。


 ふと、今度はクロミナを見てみるが、相変わらずの無表情で何を感じているのかまるでわからない。


 しばらくの間、神父は何かをつぶやいていたが、それから、俺たちの方にやってきた。


「さて……皆さんは、一体どのような罪を告白しますか?」


「……はぁ? 罪?」


 サヨが呆れ顔でそう言う。しかし、神父はにこやかな笑顔で俺たちを見ている。


「ええ。せっかく教会に来たのです。神の前で自身の罪を告白すること……それがアナタ達にとっても、きっと心を軽くすることにつながりますよ」


「……お前、本気で言っているのか?」


 サヨは信じられないという顔で神父を見ている。クロミナは無表情のまま。俺は……意味がよくわからなかった。


 罪……って一体なんだろう? 言葉自体の意味は知っているが、なぜそれを告白しなければならないのか。


 そして、俺たちは……罪を抱えているのだろうか?


「一つ、よろしいでしょうか」


 と、いきなり言葉を発したのは、クロミナだった。思わず俺もサヨも驚いて見てしまった。


「えぇ。なんでしょうか」


「私は管理者によって作成された存在です。私にとって創造者とは、管理者のことを指します。私には告白する神など存在しない」


 淡々とそう言うクロミナ。思いがけない言葉に俺は何も言えなくなってしまった。


 神父は笑顔のままでクロミナの話を聞いていたが、しばらくすると首を横にふる。


「そうですか……ですが、だからといってアナタに祈るべき神……罪を告白する神がいないことはないのです」


「意味がわかりません。そもそも、私達は人造人間です。神を崇めるなんて、人間の真似事でしかありません」


 クロミナは無表情だったが、少し怒っているようにも思えた。いや、それは俺の気のせいかもしれないが。


 と、神父は今度はサヨの方を見る。


「アナタはどうです? 神を崇めることは間違っていると思いますか?」


「……あぁ。そうだな。おかしいとは思う。だが……私は……神を否定はしないな」


 意外な言葉だった。しかし、サヨはふざけているような表情はしていなかった。


「そうですか。それは……なぜです?」


「そりゃあ、お前……私はA型人造人間だ。多くの同型の姉妹が破壊されていくのに、自分だけが破壊されなかった……それって、言ってみれば神様のさじ加減みたいなものだろう?」


 サヨがそう言うと神父はうなずくだけだった。そう言われればそうかもしれないが……サヨの言う神様は、神父の崇めている神とは違うような気がする。


「戦場を経験すれば、神様の存在を嫌でも認めたくなるさ……それだけだ」


「そうですか……では、アナタはどうです?」


 最後は俺だった。質問が来ると思って身構えていたが……それでも、答えることはできなかった。


「……俺は、人間だから……神は……いるんじゃないかな」


 俺がそう言うと神父はなぜか目を丸くしていた。それから、しばらく俺のことを見た後で、なぜか納得したような顔で頷いていた。


「なるほど……分かりました。では……貴方達に良いものを見せましょう」


 そう言ってなぜか神父は部屋の扉の方に歩いていってしまった。俺とサヨは顔を見合わせる。


「行きましょう」


 最初に席を立ったのはクロミナだった。思わず俺たちも同時に席を立ってしまう。そして、神父の後を付いていったのであった。

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