第54話 教会
「すいませんでした。まったく不測の事態でして」
回復したクロミナは相変わらずの無表情で自身が完全に昏倒していたことを謝罪した。
「……まぁ、別に構わないさ。酔っ払う機能のついた人造人間がいるって知ることができて良い機会だったしな、ナオヤ?」
サヨはそういうが、実際サヨ自身もその「酔っ払う機能」とやらが付いている気がするので、俺は同意はできなかった。
そして、俺達はまた道路沿いに歩いていく。と、またしても何かの建物を見つけることができた。
「あれ……なんだ?」
俺もサヨと同じ気持ちだった。建物にしては独特の形をしている。今まで見てきた建物とはちょっと作りが違うようだった。
「……入ってみてもいい?」
俺がそう言うとサヨは無言で頷いた。
「はい。私も同意します」
クロミナも反論しなかった。俺は建物に近づいていく。近づいていくとわかったのだが、建物にはその正面に、十字のシンボルが貼り付けられていた。
「これ……なんの印だろう?」
「あー……これは、神のシンボルだな」
いつの間にか俺の隣にいたサヨがそう言う。
「……神のシンボル?」
「そうだ。なんというか……この世界の創造主みたいなもんだろう」
「え……創造主って……人間じゃなくて?」
「いや、それは俺達人造人間のことであって……人間を作った存在ってこと」
サヨもあまりわかっていないような顔だった。人間を作った存在……それが神というらしい。
いや、俺も神という言葉自体は知っていた。だけど、神のシンボルが存在し、そして、この建物がなぜその神のシンボルを貼り付けているのか……それがよくわからなかったのである。
「中に入ってみましょうか」
と、まるで物怖じしないようで、クロミナはそのまま建物の中に入っていく。
大きな扉を開けると、建物の中は大きく開けていた。縦長の椅子が並べられていて、その前方が少し高くなっており、壇上のようになっている。
「……教会、か」
サヨがそう言った。教会……思い出した。人間が神に祈る場所のことだ。
「ようこそ、教会へ」
と、いきなり声が聞こえてきた。俺は思わず身構えてしまう。
「……誰だ?」
サヨが呼びかけると、壇上の奥から人影が現れた。
「礼拝にいらっしゃいましたか? 素晴らしい……何十年ぶりのことでしょう」
現れたのは、黒いローブのような服を来た白髪の老人だった。優しげな笑顔は敵意を感じることはできない。
「お前……なんだ?」
「私はこの教会の神父のようなものですよ。迷える子羊を導く存在です」
「はぁ? ……お前、自分が人造人間だって分かって言っているのか?」
サヨが呆れ顔でそういうと、神父らしき老人は小さく頷く。
「えぇ。人間には神がいるのです。人造人間にも神がいては駄目なのですか?」
そう言われて思わず俺とサヨは顔を見合わせてしまう。あまりにも予想外の言葉だったからだ。
「さぁさぁ。どうぞ、お座りください」
「はぁ? いや、私達は別に礼拝に来たわけでは……」
「そうなのですか? ですが……お連れの方は参加されるようですが」
と、そう言われて俺達は、クロミナがいつのまにか長椅子に座っているのを確認する。
「……仕方ない。少しだけ、付き合ってやろう」
サヨの言葉に俺も同意することにした。図らずも俺は始めて「礼拝」とやらに参加することになったのであった。
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