第51話 目的地

「そういえば、お二人はどこへ向かっているのですか?」


 ふいにクロミナそう言ってきた。俺とサヨは思わず立ち止まってしまう。


「え……どこって……別にどこに向かっているってわけでもないんだけどな……」


 俺がそう言うとクロミナはまた驚いた顔で俺のことを見る。


「目的地を設定していないということですか。では、なぜ旅を?」


「それは……なんでだろうね?」


 思わず俺はサヨに聞いてしまう。


「……私に聞くな。というか、目的地がないと同行したくないのか? それなら、今すぐ元のあのシェルターに戻ってもらってもいいぞ?」


 サヨは少し意地悪くそう言うが、クロミナには通じていないようである。


「いえ。そういうことでしたら、一つ希望があります」


「え? 希望?」


「はい。私には行きたい場所があります」


 予想外の発言に驚いてしまった。クロミナが自己主張をするなんて俺も、たぶんサヨも考えていなかったであろう。


 そして、そうなると、もちろん思い当たる可能性は唯一つである。


「……それって、お前の希望、なんだよな?」


 サヨが確認するようにそう言う。クロミナはキョトンとした顔をしている。


「はい。私の希望です」


 その無表情さはどうにもまるで信用できなかった。サヨもそう思っている感じだったが、おそらく、問いただしたところで返答は変わらないだろう。


「まぁ……いいんじゃない?」


 俺がそう言うと今度はサヨが驚いた顔で俺を見る。


「お前……アイツが危険な存在だって、わかっているんだよな?」


 サヨは俺の耳元に近づいてきてそうささやく。


「いや、まぁ……でも、俺たちも目的地がないわけだし……希望があるならそれでもいいんじゃない?」


 サヨは呆れ顔をしていたが、特に反対するつもりもないようだった。


「……そうだな。お前の旅だからな。私は意見しないよ」


 と、そこで俺は今一度クロミナの方を見る。


「えっと……じゃあ、クロミナ、その行きたい場所に行こうよ」


 そう言うとクロミナは少し安心したように小さく頷いた。もちろん、表情は相変わらず変わらなかったが。


「では、私に付いてきてください」


 こうして、俺達の旅には、クロミナによって、一応の目的地が設定されたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る