第41話 扉
「へぇ。旅、ですか」
女性は感心したようにそう言った。あまり驚いているのか、驚いていないのか、わからない表情だった。
「それはいいですね。私も旅をしてみたいって思っているのですよ」
「あはは……まぁ、そんな大したものじゃないけどね」
俺がそう返しても聞いているのかいないのか、いまいちわからない。どうにも不思議な感じの表情だった。
「あぁ。そういえば、私の名前、クロミナって言います」
「あ……どうも。俺がナオヤで、こっちが……」
俺がそう言ってサヨに視線を向けるが、サヨは明らかに不機嫌そうだった。
「……サヨっていうんだ。よろしく」
「ナオヤとサヨですか。記憶しました。きっと、アナタ達も『街』を気にいるはずですよ」
「街? この廃墟のことを言っているのか?」
と、いきなりサヨが馬鹿にした調子で鼻で笑う。しかし、クロミナは表情を変えずにサヨのことを見ている。
「いいえ。ここではありません。こちらです」
そう言うと、クロミナはそのまま近くの明らかに廃墟のビルに入っていく。無論、ビルの中も完全に荒れ放題だった。
と、なぜかクロミナはビルの階段を降りていく。どうやら、地下に向かっているらしい。俺もサヨも何も言わずにそのままクロミナについていく。
そして、それから何回か階段を降りていった。おそらく地下4、5階くらいについたと思う。
「で、どこに街があるんだ?」
サヨが明らかに馬鹿にした調子で再度クロミナに尋ねる。しかし、クロミナは平然とした顔でサヨを見る。
「こちらですよ」
と、クロミナが立ち止まったのは、大きな扉の前だった。鋼鉄製らしき扉はとてもじゃないが、簡単には開かないように見える。
「……閉まっているけど。入れるのか?」
「ええ。基本的には扉の中から外に出るのは私くらいですね。私は『案内人』ですから」
そう言ってクロミナは扉の右端の方に行き、何かパネルのような物を操作している。
すると、甲高いピーッという音がすると共に、鋼鉄製の扉がゆっくりと上に向かって持ち上がっていく。
「さぁ。どうぞ、中へ」
躊躇うことなくクロミナが扉の先に入っていく。
「え……どうするの?」
思わず俺はサヨに訊ねてしまう。サヨは俺を鋭くにらみつけると、前を行くクロミナの背中を見る。
「……アイツが言う『街』とやらがどういうものか、見てやろうじゃないか」
そう言ってサヨも進んでいってしまう。俺もその後に続いて、扉の先に進んでいったのであった。
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