第20話 ホテル
「……これが部屋か?」
部屋に入るなり、サヨは信じられないという声をあげた。実際俺も驚いた。
部屋の中はあまりにもピンクだった。部屋がピンクというより、照明がピンクなのである。おまけにベッドも、とても大きい。一人で眠るにはあまりにも大きいだろう。
「変わったホテル……だね」
部屋の中には旧式ではあるが、小型のテレビもあるようだった。
「……仕方ない。どうせ急いでいないんだ。少し休んでいくか」
そう言ってサヨはベッドに横になる。俺は部屋を見回していた。
と、ベッドの脇にはなぜかボタンのようなものが置いてあった。思わず気になって俺はためらいもせずに押してしまった。
「うおっ!?」
と、サヨが驚いた声をあげた。見ると……ベッドが回転しているのである。
「へぇ……変わったシステムだなぁ」
「お、おい! 見ていないで止めてくれ!」
サヨが焦っているのは見ていて面白かったが、流石に可愛そうなので俺はボタンを再度押してみた。ベッドは回転するのをやめた。
「な……なんなんだ。この部屋は……」
「う~ん……珍しいね。俺もこういうホテルがあるなんて知らなかったよ」
「……お前、楽しそうだな」
「え? まぁ、初めて見るものはなんでも珍しいからね。あ、そういえば、これ」
そう言って俺は先程部屋を見回して見つけたものをサヨに差し出す。
「なっ……! お、お前……なんてものを見せるんだ!」
「え……なんてもの、って……これって、かなり古い時代の記録メディアでしょ? すごくない? まだ残っていたなんて……え? なんで少し恥ずかしそうなの?」
「お前……そ、それは……その……いわゆる破廉恥なものだ」
サヨは恥ずかしそうにそう言った。破廉恥……つまり、いがかわしいもの、ということだ。
確かにその記録メディアが入っていた箱を見ると、裸の人間の男女が写っているが……これが破廉恥なのだろうか?
「破廉恥……なんだ」
「お前……ホントに色々と……知らないんだな」
「まぁ、そうだねぇ……というか、サヨはよくそんなことも知っているね」
俺がそう言うと、サヨは少し悲しそうな顔をする。
「……A型人造人間は、なるべく人間そのものに近いように作られているからな。そういう一般常識も、最初からインプットされてるんだよ」
「それは……戦争に必要なことだったの?」
俺がそう言うとサヨは黙ってしまった。どうやら、それは聞いてはいけないことだったようだ。
と、そんな沈黙が訪れた、その時だった。
「オヤ? ナゼ、オフタリハ一緒ニ寝テイナイノデスカ?」
部屋を開けてやってきたのは……先程の旧式のロボットなのであった。
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