4人の勇者(愚者)

 国王は早速教皇を拉致してくると、召喚を強要した。


「難しいものではないのだろう。さっさとしろ」


 ゲイラードはあくびをしてそういった。


「僭越ながら申し上げます、召喚には4人の生きた人間、もしくは獣人が必要なのです」

「ならば獣人を連れてくればいい。ちょうど地下牢に何人もいるだろう」

「しかし、獣人を使った場合、召喚されたものは獣人になりますがよろしいですか」

「ふむ……それは困るな、よし、奴隷を連れてこい。戦奴隷だ」


 戦奴隷として連れてこられたのは元騎士団の上層部に居た者たちだった。彼らは前国王に忠誠を誓った存在であり、それを生涯変えてはならないという誓約に乗っ取り、ゲイラードに反抗していた。


「コイツラがいいだろう」


 教皇地面に魔法陣を書き、その中心に羊皮紙を広げて置いた。

 連れてこられた戦奴隷は魔術師たちによって体を固定され、逃げることができない。

 教皇は呪文を唱えた。

 羊皮紙が浮き上がり、4等分される。ひらりひらりと舞い、4人の戦奴隷の胸に張り付いた。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 おぞましい悲鳴とともに、戦奴隷たちは暴れだす。魔術師たちが数名がかりで一人を抑え込んではいるが、それでも体は逃げ出そうと動いている。

 と、魔法が遮断され、奴隷たちは球体の結界の中に閉じ込められた。

 暴れまわる、ウジ虫のように体をくねらせて。何度も結界にぶつかり、体をかきむしり、地面は血まみれになる。


 バチンという音とともに戦奴隷は赤い球の中に入った。

 違う。

 球体を染めるのは奴隷たちの血肉だ。

 結界の中で体が弾け飛んだのだ。

 あまりのグロテスクさに吐き出すもの、失神するものが現れる中、国王ゲイラードだけは笑っていた。


「いい余興だ」


 結界は徐々に収縮し、最後にはそれぞれ人間の形になっていく、虹色に輝く。

 結界が解けていくと、奴隷たちは別人になっていた。スーツを着ている者、作業着を着ている者、スウェットを着ている者、革ジャンを着ている者、様々だ。


「なんだここ」

「げ、お前らなんでいんだ、てかここどこだよ」

「うわ懐かしいな」


 4人中3人は互いの再会を称え合っているようだった。スウェットの一人は国王を見上げ、周りを見渡し、

「異世界か」

とつぶやいた。


「お前ら、よく来てくれた!」


 ゲイラードは再会を喜ぶ三人をよそに言った。


「あ、誰だよお前」


 革ジャンの男が言った。髪を茶髪にそめ、鼻がひん曲がっている。


「国王陛下に向かって失礼だぞ!」


 側近の一人が騒いだ。


「国王? 日本に国王なんていたっけ。マジ? ウケるわ」


 ケタケタと革ジャンは笑う。


「黙れ」


 騎士の一人がいつの間にか革ジャンのそばにおり、首元に剣を突きつけていた。切っ先は肌に数ミリ突き刺さっている。血が流れる。


「え、なにこれ、本物? やばくね」


 革ジャンは両手を上げた。


「おい! フルちゃんに何すんだよ!」


 ヤンキー特有のふざけた仲間意識で作業着の男は騎士に詰め寄ったが、その瞬間別の騎士が、作業着の腹に剣を添えた。


「引けば腸(はらわた)が飛び出るぞ」


 作業着の男は騎士を睨んだが、自分の腹を見て怖気づいたのか、スーツの男を見た。


「……イガちゃん」

「おやめください。二人は悪気があったわけではないのです。ただ状況が飲み込めていないだけで」


 スーツの男はそう言って一歩前に出た。


「少しは話のわかるやつがいて助かるな、まあ、一人黙りこくっているやつもいるが」


 ゲイラードはそう言うと、スウェットの男をみた。


「これ、異世界に召喚されたんですよね。俺達に何をさせようとしているんですか?」


 スウェットの男がそう尋ねると、側近たちは驚きの表情を見せた。


「ほう、他の連中より更に話のわかるやつがいるとはな」

「お前よく見たら星澤じゃねえか。死んでなかったのかよ」


 ケタケタと革ジャンと作業着が笑う。


「黙れ」


 騎士は更に革ジャンの首に剣を突き刺す。


「痛い痛い、すんません!!」


 国王は椅子から立ち上がると、階段をおりてスウェットの男の前に立った。国王の身長は180cmほど。かたやスウェットの男は160cmほどだ。完全に見下ろす形になる。


「手を出せ」


 スウェットの男は簡単に指示に従う。

 ゲイラードはその手に持っていた印を乗せた、瞬間、


「ぎゃ!!」


 スウェットの男は叫んだ。印は一瞬で高温になり、手の甲にはしっかりと痕が付いた。


「さあ次だ」


 騎士は革ジャンと作業着の腕を背に回す。スーツの男が逃げようとしたが、魔術師の一人に魔法をかけられ動けなくなった。


「お前は胸だな」


 国王は革ジャンの胸をはだけさせると印を押した。


「やめろやめろ! ぎゃあああ!!」


 じうじうと肉の焼ける匂いがする。国王は先程より長い時間印をしっかりと押した。彫刻刀で彫られたように、革ジャンの胸にははっきりした印が残された。


「お前はそうだな、背中だな」


 次は作業着の番だった。

 騎士たちに上半身を裸にされ、地面に組み伏せられる。


「てめえ! 後で見てろよ」

「その言葉が最後の反抗だ」

「ぎゃあああああああ!!」


 焼印がくっきりと背中に付けられる。肩甲骨が見えるのではないかと言うほどはっきりと。

 魔法で浮いているスーツの男の元へゆっくりと国王は歩いていく。


「やめろ! やめろおおおお!」


 スーツの男はもがいたが頭がガクガクと揺れるだけだ。ゲイラードは、その頬に印を近づけた。


「やめ……ぎゃああああああ」


 皮膚が焼かれ、収縮する。スーツの男の顔はいびつに右側の口角だけが常に上がっている状態になる。まるで笑っているように。

 騎士たちが離れる、スーツの男は魔法を解かれ、地面に落ちる。


「くそ、殺してやる」


 スーツの男はそう言うと、ポケットからボールペンを取り出した。金属でできた高級なものだ。

 彼は走り出し、ボールペンを付き出そうとした。


「止まれ」


 ゲイラードは振り返り、命じた。スーツの男は命じられるままに止まる。まるで自分がそうたかったかのように。


「は? ……え?」


 ゲイラードはあるき出す。


「頭が高いぞ、跪け」


 言うと、四人の転移者は皆跪いた。

 国王は階段を登り、椅子に座る。


「実に壮観だ」


 彼らはゲイラードの奴隷になった。

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