召喚の羊皮紙
人が多い。ダンジョンのボス部屋、イエロードラゴンの住処に側近たちを追い出して行く。
「ちょっと主、人の家汚さないでよ」
「うるせえ、黙ってろ」
俺は言うとダンジョン奥にある自宅を拡張した。ポイントはまだ十分にある。何人も殺したからな。拡張した場所にベッドを多数、それから風呂を準備した。今回はちゃんと男女分けておく。
特級ポーションを更に準備して、全員の手足だの怪我だのを治すと、言った。
「中にはいれ、さっきより広くなっている。お前ら風呂に入れ。服は用意しておく」
彼らが歓喜の声を上げて、風呂へと向かう間大量のジャージを用意していると、セレナが微笑んで言った。
「ユキハルは優しいんだな」
「どこが。ナオミに不快な思いをさせたくないだけだ」
セレナはまた微笑んだ。嘘を言っていると思ってるのだろうか。
俺は本気だ。
全員風呂に入り匂いがある程度取れたところで、お揃いのジャージを着させたがそれはまあ見かけおかしい部分があって、特に元貴族なんかは最初はブーブー言っていたがその生地の良さを発見すると俺を質問攻めにした。俺は無視した。
全員が座れる机は無いので主要な側近に座ってもらい他は別の部屋へ移した。話によるとあの牢に囚われていたのは側近だけでなく元国王派で新しい国王になっても頑なに鞍替えしなかった貴族も含まれているらしい。
「国王陛下はまだ救出しておられないのですか?」
側近の一人が尋ねた。元宰相だというその獣人は鷹の頭をしていた。
「今からする」
「どうして先に国王陛下をお助けにならなかったのですか」
語勢を強めて彼は続けた。俺は表情を変えずに彼を見た。
「どう考えたって人数多い方を先に助けるだろ。こっちにだって用意ってもんがあるんだ。それとも何か? お前ら俺に一人で助けさせろっていうのか? 塔の警備ってそんなに薄いのか? 魔法結界は無いのか? そんなんでよく宰相なんて務められたな」
俺は続けざまにべらべらと喋った。鷹は黙ってうつむき、すみませんといった。
「まあ、すぐにでも一人で助けに行くけどな」
俺は言って立ち上がると、クローゼットを出現させた。
「まて、私も」
「いい、多分塔のほうが危険だ。お前も待っていろ」
俺はクローゼットの扉の中へ入っていった。
◇
簒奪の王ゲイラード・グローバーの前に一人の男が跪いている。いや男と言うには不格好な見た目だ。顔をペストマスクのような前方に極端に伸びたマスクで覆い、背は低く、引きずるほど長く黒いローブで全身を覆っている。魔力鑑定士によると非常にどす黒い魔力を身にまとっており、その力は尋常ではない、人間ではありえないことから魔族ではないかとのこと。敵意はないと言っていたが信じることはできない。騎士たちは警戒し、国に仕える魔術師たちが緊張した面持ちで控える中、彼は口を開いた。
「国王様、魔王様の一人からとある情報を伝えたく馳せ参じました」
男はシュルシュルと舌を鳴らすような音をたてながら発音した。
「情報とは?」
「只今この国では獣人を狩り、滅ぼそうとしているとお聞きいたしました」
「ああ、そのつもりだ」
「魔王様はそのご助力をされたいと申され、この情報を届けるようにと私に命令されました。どうかお受け取りを」
国王ゲイラードは肯くと、側近の一人に目配せをした。側近は手を震わせながらその手袋をはめた手から羊皮紙を受け取り、国王に手渡した。国王はそれを開いたが理解できない。彼は宰相を呼び、宰相は魔法学者を呼んだ。
「これは!」
そう言うと魔法学者は国王に進言した。
「恐れながら申し上げます。これは伝説の召喚魔法であると思われます。使用できるのは教皇とそれに次ぐ大教会の数名だけかと」
「召喚魔法? ドラゴンでも呼び出すのか?」
興味津々といった様子でゲイラードは前傾姿勢になってローブの男に尋ねる。
「いいえ、召喚するのは魔物でもドラゴンでもはたまた魔族でもなく人間です」
それを聞いた瞬間ゲイラードは鼻を鳴らし、どっかと背もたれに体を預けた。
「ふん、つまらん」
「いいえ、そうでもございません。召喚された人間は魔族に匹敵する魔力と竜族に匹敵する武力、そして、誰よりも恐ろしいスキルを持って召喚されるのです。いわば伝説の勇者と言えるでしょう」
簒奪の王は感心したように唸った。
「ほう、それは面白い。それで、何を見返りに求めている」
ローブの男は頭を振った。
「いいえ見返りなど頂けません。ただご助力をしたいだけでございます」
「ふん」
国王は側近に金貨の入った袋を持ってこさせ、それをローブの男に投げた。
「持っていくがいい」
「ありがたき幸せ。その一つの羊皮紙で四人まで呼び出すことができます。呼び出す人間はこちらで指定してあります。厳選してありますゆえご心配なく。それでは失礼致します」
そう言うとローブの男は謁見の間を出ていった。
ローブの男は城を出ると金貨の入った袋を投げ捨てた。
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