初めて会う団長

 騎士は女だった。ブロンドの髪が夕暮れの強い光に照らされて輝いている。右の頬に深い傷があって、表情を変えるのに難儀しそうだ。

 女性にしては低い声で彼女は言う。

「この近くで騎士を見なかったか? 12人の騎士だ。死んでいても構わない。情報が知りたいんだ」

「さあ、知りませんね」


 俺は黙ってしまった。

 指示に従う。

 指示に従う。

 でもそうしたら、俺はひどい目に合わされる。またフラッシュバックが来る。

 一瞬ふらつく。


「大丈夫ですか?」

 ダニエルは心配そうに俺にいう。

「ええ、平気です」

「すみません。彼はあまり馬車に乗りなれてないのです。どうかご容赦頂けないでしょうか」

「わかった。すまなかったな」

 女騎士はそう言うと道を開けた。

 ダニエルは馬車を進め、俺を家まで送った。

 俺たちは尾行がついてきているのに気がついていなかった。



 ◇

「尾行の結果は?」

 団長セレナは騎士の一人に尋ねた。隠密のスキルを持つ彼は諜報を得意としていた。

「森の中に家があり、近づこうとしたのですが……」

「なんだ?」

「いえ、周囲を塀で覆われており、塀の上に4つのバリスタがありました。近づこうとするとバリスタが動いて狙ってくるのです。あれは魔術のたぐいでしょう。あの男は何かを隠しています」

 セレナは鎧の胸当てを見た。腹の部分に空いている穴。初めは魔物に噛みつかれた跡かと思ったがこれは……、

「これはバリスタで貫かれた跡か?」

 場の空気が緊張する。

 もしもそれが本当ならあの男は重大な罪人だ。


「あいつの家に向かうぞ」

 セレナは歯ぎしりをして馬を走らせた。


 ◇


 俺はPCモニターを見て歯ぎしりをした。どうして騎士たちは俺の家に来る?

 青いマークは門の周りを取り囲み動かない。


「でてこい、人殺し! 騎士を殺した罪は重いぞ!」


 ここからでも門を破壊しようとしている音が聞こえてくる。閂がきしむ。

 俺は窓を開けて叫んだ。


「仕方なかった! 仕方なかったんだ! 俺だって殺すつもりはなかった!」

「何であろうと罪は償ってもらう。でてこい!」

 

 指示だ。


 従え!

 従うな!


 バキッと閂が折れる音がした。


「やめろ! 入ってくるな!」

 

 怖かった。騎士たちがじゃない。

 殺してしまうんじゃないか、傷つけてしまうんじゃないか、それが怖かった。


 騎士たちが体当たりをして、門が開いた。家まで走ってくる。

 押し入られたら最後殺される。

 それも騎士殺しの罪で、だ。死ぬまで痛めつけられる。


 痛いのは嫌だ。怖いのも嫌だ。苦しいのも辛いのも嫌だ。


「出てこいこの人殺し!」


 従え!

 従うな!

 従え!

 従うな!


 呼吸が荒くなり、心臓が破裂しそうなほど、鳴る。俺はうつむいてしゃがみこんだ。

 嫌だ。

 逃げたい。

 ここからいなくなりたい。


 誰か助けてくれ。


 瞬間、バリスタが弦を引く音がした。背筋が凍った。

 それだけはだめだ。

 やめろ!

 やめろ!!


「やめろ!!!」


 声は虚しい。矢が発射され先頭を走っていた屈強な男たちが射抜かれた。胸に大きな穴があいて、矢で支えられた体はカカシのように棒立ちになる。


「うわああああああ!!!!!」


 膝が折れる。頭を抱える。

 震える。

 何が?


 地面が揺れている。


 叫ぶのをやめても揺れは収まらない。

 俺は立ち上がり窓の外を見て、

 背筋が凍った。


 大量のオークと5体のスケルトンナイトが塀の外に現れた。


「ダンジョンから溢れてきたのか……」

 呆然としていると、騎士たちは馬を翻した。


「くそ! 退却だ!!」

 

 団長とよばれていた女を先頭に騎士たちは逃げ去った。オークの波に飲み込まれて何人かが死んだ。最後に逃げ切れたのは4人ほどだっただろう。


 オークたちは役目を終えたとでも言うように、俺の家には興味を示さず、ダンジョンの方へ帰って行った。


「なんだったんだ」

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