第56話 穏やかな気持ちとどんよりの気持ち

 支援部復活を発表後、昼休みも終了しつつがなく一日が終了。


 教室にてショートホームルームが終了し、放課後のチャイムが鳴るとともに俺は思い切りあくびをしながら背伸びをした。


 あー。今日は、いや、今日も授業よくわからなかったー。


「よ、蒼ちゃん」


「いって、なにすんだ礼!」


 伸びをする背中に張り手を喰らい、涙目になりながら抗議する。


 俺の背中に張り手を喰らわした主である礼は、にやにや笑いを浮かべていた。


「ちょっと機嫌良さそうじゃん。聞いたぞ、いろいろと解決したみたいだし心穏やかなのか? 噂になってるぞ」


 どうやら、日堂の件が解決した旨は生徒たちの耳にも入っているらしい。


 昨日処分の話を聞いたばかりなんだがな。噂を聞きつける奴はどこで聞きつけているのやら。


 ちらりと教室の他の生徒に視線を送ると、なるほど俺に対して好機の視線を向けている連中がちらほら見受けられる。


 俺と目が合った女子は俺と目が合うや否やはっと視線を逸らしたが、気にはなるのか少し首を俺のほうに向けようとしている。


 難儀なものだ。


「噂が出るの早すぎるよなあ。どっから仕入れたんだか」


「火のないところに煙はたたないっていうだろう? 蒼ちゃんが火をたてたからその煙がばれたのさ。……と言いたいところだが、もともと妹の件で問題があった事も噂になっていたし、日堂が学校来なくなったからだろうな」


「まあ、そりゃそうか。あんまり大っぴらにいう事じゃないが、とりあえず日堂の件は解決したし今後関わることもない。というか日堂が俺と関わりたいと思わないだろうな」


「……悪い顔してるけど蒼ちゃんなにしたの?」


「企業秘密だ」


 俺は唇に人差し指を当てて、言わないアピールをすると、春野から俺のスマホに送られた日堂の写真を思い出した。


 あいつはこれがある限りは俺と関わることは不可能だろう。


 流石に武士の情けでこの事件に関わりの深い人間以外がこの写真を見る事はないよう配慮はしておく。


「えー。めちゃくちゃ気になるけどなあ。こっそり教えてくれよ」


「お断りだ」


「ちぇー。まあ、いいか。俺はこのまま部活行くし、また明日な。とりあえず今日は噂耳にしたから一言お疲れとだけ言いたくてな。じゃ」


 礼は俺を労うと、鞄を持って爽やかに教室を後にした。


 なにあの好青年っぷり。俺が女子なら頑張ったこと褒められて労われたりなんかしちゃたりしたらきゅんとしちゃうよ。


 まあ、労ってくれる気持ちはありがたい。


 ほんの少し嬉しくなった気持ちのまま鞄を持って立ち上がる。


 まだ、支援部の復活が決まっただけで活動があるわけでもないし帰るか。心もほっこりしたし穏やかに帰れそうだ。


 俺は教室を後にしようとすると、不意にスマホがポケット内で震えた。


 一回だけでなく数回震えているから電話だろう。俺はポケットからスマホを取り出すと、ディスプレイに目を落とした。


 表示されるは翠の文字。……いったい何だろう。


 恐る恐るスマホを耳に当てる。


「もしもし?」


『お兄、校門今すぐ』


 たった一言告げられるとぷつりと通話が切られた。


 なんか翠の声が低かった気がするのだが、いったい何だったのだろう。


 少なくともご機嫌は斜めなような気がする。


 俺の穏やかだった気持ちは一瞬でどんよりし、足取り重く校門へと向かうことにした。

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