第57話 妹達の水着コンテスト
どうしてこうなったのだろうか。
「お兄? こっちは?」
「蒼兄、これはどうですか?」
大型ショッピングモール、エオン。その女性向け水着コーナーの試着室前にて、好機と嫌悪の視線に晒されながら俺は恥ずかしさのあまりズボンの太もも辺りを握りしめた。
俺のその気持ちをつゆ知らず、試着室からはモスグリーンのオフショルダーのビキニに身を包む翠と、白のフリルビキニに身を包んだ真白が各々モデルのように着こなして俺に意見を求めた。
「あ、その、いいと思います……。似合ってます……」
正直目のやり場に困りながら、俺は感想をボソリと呟いた。
二人とも素材は素晴らしい。兄の贔屓目ましましだがダイヤの原石だしなんならダイヤそのものだ。似合ってるとしか言いようがない。
「どっちの方が似合ってる? 私だよね?」
「翠、その聞き方はずるいです。公平に決めてもらわないと。正直に私の方が似合ってると言ってくれていいんですよ?」
「はあああ?」
真白と翠は俺の前でぎゃーぎゃーと口論をはじめ、俺はそんなこといいから早く終わってくれと神に祈る。
遡ること数十分前の事。
翠に呼ばれた俺は校門に向かうと、なぜか翠だけでなく真白がそこにいた。
翠は俺に気付くや否や、水着を買いに行く事。真白もついてくる事。正直に似合ってる方を選んで欲しい事を告げた。
なんでも、今度のプール清掃の時にはビキニを着ようかと翠が真白に言ったところ、真白も水着の新調をしたい事を伝えたらしい。
ここまでなら普通の会話だが、翠がどっちが俺の好みに近いかという話で揉め出したようだ。
なんで俺好みかで揉めたのかはわからんが、まあ二人とも負けず嫌いだから変なプライドが折れる事を邪魔したのだろう。
そして、現在に至る。
いや、正直可愛い妹達の水着姿だ。一眼レフがあれば撮っているところだがあいにく持ってない。
目に焼き付けたいところだがあんまり見てると視線が痛いしなにより恥ずかしい。
そんななんとも気まずい状態で生殺しのような苦しみを味わってるわけで、ジャッジどころではないのだ。
だがしかし、二人はそんな俺の気持ちなどお構いなしにジャッジを求めてくる。
「な、なあ。二人とも素敵だぞ。それじゃあダメか?」
「「ダメ!」」
妥協してもらいたいがあまり、交渉してみるが二人が否定をハモらせる。
仲良しか。
ツッコミたい気持ちをグッと堪えて俯く。どうしても優劣を決めたいようだ。
「どうしても?」
ちらりと翠を見ると、翠は俺を睨んだままこくりと頷いた。
次に真白を見つめると、真白もまたこくりと頷いた。
どうすりゃあいいんだよ。
「翠のその水着は素敵だし海にでもいりゃあじっと見てしまうしスタイルも良くて着こなせていて素晴らしいだろ? で、真白はそのフリルが可愛らしくていつもクールな佇まいとのギャップがあるし、なにより似合ってるからずっと見てしまうくらい素晴らしいんだが、甲乙つけられないぞ……。どっちも好みだし。めっちゃくちゃ好き」
俺は頭を抱えて俯くと、思った事を思ったまま口に出した。
ほんと似合ってるから甲乙つけられないんだよ。
はあ、こうなったら決められませんと謝り倒すか。
俺は意を決して顔を上げると、顔を真っ赤にした翠と真白が、黙りこくって顔を見合わせると試着室のカーテンを閉めた。
そして、何やらゴソゴソと音がしたと思ったらほぼ同じタイミングで翠と真白は飛び出して一目散にレジへと向かって行った。
……あれ? いつの間にか納得してもらえたのか?
水着コンテストの呆気ない幕切れにほんの少し呆然としたものの、無事に終わった安堵と開放感から俺は胸を撫で下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます