第55話 支援部再開のご連絡

「もう無理、お腹いっぱい」


 お弁当を全て完食した俺は、椅子にのけぞってお腹を撫でた。


 食べすぎた。空になったお弁当箱が三つ並ぶ机と、翠、真白、春野がお弁当の前で三者三様に嬉しそうだが、俺はもはやそれどころではない。


 腹がはち切れた蛙のようにそのお腹は膨れ上がっていた。


 いや、うまかったから残せるわけがなかったんだけども、腹十二分目をゆうに超えている。


「まさか食べ切るとはなあ。すごい腹だなあ」


 信じられないものを見るような目で、魅墨が空になった弁当箱と俺のお腹を交互に見る。


 まあ、俺もおんなじ光景見たらおんなじ事しちゃうな。


 ふう、苦しい。苦しいが、話さないといけない事がある。


 俺は息を一つ吐くと、苦しいながらも姿勢を正した。


「さて、ちょっと昼休みの間に話したい事あるんだけどいいか? 全員に関わる事だ」


「……なあに?」


 俺が姿勢を正して話し始めると、翠、真白、春野、魅墨は顔を見合わせ、翠が代表して俺に聞き返した。


「支援部の活動再開についてだ」


「「「「再開する(っすか)!?」」」」


 俺が支援部再開を口にすると、全員の声がはもり、春野に至っては立ち上がってしまっていた。


 まあ、無理もない。春野は支援部歴も一番長いからこそ余計に驚いたようだ。


「落ち着け落ち着け。春野、まずは座れ」


「あ、すみませんっす」


 興奮した様子の春野をなだめると、春野は謝りながら座り直した。まあ、謝ることはないんだけども。


「えっとだな、黄島先生から今週の土曜日に休日返上でプール開きの為のプール掃除の依頼を受けたんだ」


「……ということは黄島先生から雑用を押し付けられたって事ですね」


 流石は真白察しがいい。


 俺の説明を聞くや否や、顎に手を当てながら推理し導かれた答えは事実そのものだった。


「まあ、雑用とはいえ支援部の復活は個人的にはすっごく嬉しい。確かにめんどくさくもあるが、慣れ親しんだ活動がまた出来るのは喜ばしい」


「ほんとっすね! また皆野さんと、あとみんなと一緒に活動出来るっすー! やったー!」


 春野は今度は嬉しそうに両手を振り上げて立ち上がると、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


 まあ、もともと俺と春野だけだったからな。思い入れは深いだろう。


「じゃあ、みんな参加出来るでいいか? 一応土曜日の事だから無理なら不参加で黄島先生にも伝えるが」


 全員を流し見るが、どうやら不参加者はいないらしい。


 むしろ、みんなの瞳からはやる気すら見えているようだ。


「じゃ、当日は頼むぞー」


 俺が土曜日からの再開を決定すべくお願いするや否や、チーム女子はこそこそと話し始めた。


「清掃って事は濡れるし、水着の方がいいよね。土曜日の活動って服装規定ある? 私ビキニにしようかなあ」


「み、翠なに言ってるんですか? ……と言いたいですが、土曜日くらいは目を瞑っても。それに、スクール水着よりもそっちの方が気を惹かせられるかも……」


「あたしは何にするか迷うっすね……。あまり派手なのは苦手っすけど……、いや、弱気にならずにトレンドを生かすっす」


「私は部外者だが、黄島先生にお願いして参加させてもらおうかな。親友だからな、休みも同じ活動をせねば。いや、むしろ今まで一緒じゃなかった事がおかしいくらいだ。当日は片時も離れず活動しよう。そうだ、私から目を離せないものを着てもいいかもしれない。ふふふふふ」


 なんだろう、背中が凍える。


 四人がこそこそ話して怪しく不気味に笑ってる気がするが、活動再開が喜ばしいのだろうか。


 あれ? そういえば、当たり前のように魅墨にも話だけど魅墨って参加するのか?


 ……やばい、親友っていうのに毒されすぎてるのかもしれない。


 活動再開の喜ばしさとともに、魅墨が参加するのがあまりにも当たり前の事実となっている事に驚愕し背中に寒さを感じた。

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