第54話 愛があればラブイズオーケー
かたや、卵サンドにツナサンド、BLTサンドにカツサンド、ハムチーズサンドなど、色とりどりのサンドイッチが並ぶお弁当と、ちょっと強気に俺を見る真白。
かたや、そぼろご飯に焼き鯖、里芋と高野豆腐と人参の煮物、だし巻き卵の入った健康志向のお弁当で自信ありげな翠。
かたや、どーんとオムライスのみが入ったお弁当と指をつんつんして恥ずかしそうにする春野。
ご機嫌な昼食だ。
現在お昼休み。支援部部室にて俺の左前に真白、正面に翠、右前に春野が色とりどりのお弁当を机に広げており、俺はただただ圧倒されていた。
右を見ても左を見ても正面を見ても豪華だ。
「おお、なんておいしそうなんだ。蒼司が羨ましい」
魅墨は、購買で買った焼きそばパンをもぐもぐと食べながら多分本心でそう言った。
羨ましいのならちょっとあげるぞ。と言いたいところだが今この場でそんな事を言ったら喉笛を掻っ切られそうだ。
「さあ、お兄、誰から食べるの?」
翠は開口一番手を広げて誰から食べるか俺を選択させようと促す。
あ、その手法知ってるぞ。メンタリストの人が言ってたけど他人が選択するようにわざと手を広げてほんの少し端のもの見えにくくして真ん中のものを選択させやすくするテクニックだ。
やるな、我が妹。
……なーんて、考えすぎかもしれないが、俺は翠のお弁当から手を取った。
「じゃ、いただきます」
「召し上がれ! ……ほんとに効果あるんだ」
翠から食べる許可をいただき手を合わせてそぼろご飯を頂く。
ご飯に合う味付けで、白米がすすむ。
焼き鯖も良い塩梅で、煮物もしっかり味がしみ込んでいる。
「うん、相変わらずうまいなあ」
「でしょ!」
俺は翠のお弁当を褒めると、昨日と同様翠は得意げに胸を張った。
だが、翠のお弁当ばかり食べるのも忍びない。
今度は……とお弁当を選んでいると真白と目が合ってしまった。
なんか目が合うと食べたほうがいいかな? と思ってしまう。
まあ、真白のお弁当はサンドイッチで食べやすいし卵サンドをいただこうかな。
真白のお弁当に手を伸ばして卵サンドを掴むと、中身は厚焼き玉子が挟まっており、ほんのちょっぴり珍しくしげしげと見てしまう。
「あ、それなんですけど昔喫茶店で食べた美味しい厚焼き玉子のサンドイッチが忘れられなくて再現してみたんです。正直一番の自信作だったんですが、一番に選んでもらえて嬉しいです」
「へー。そうなんだ。ちょっと変わってるのなあ。いただきます」
真白曰く、自信作らしい変わり種卵サンドを口に運ぶと、甘く味付けされたふわふわの厚焼き玉子とマヨネーズ、パンがマッチしていて真白のいう美味しくて忘れられないという意味がわかった。
これは美味しい。定番で食べたいくらいだ。家でも作ってもらえないだろうか。
「真白、これはうまいぞ。忘れられない気持ちもわかる。確かにそう思ってしまうな」
「ふふふ。嬉しいです」
真白は口元を手で隠しながら嬉しそうに笑った。やはり料理を褒められるというのは嬉しいことなのだろう。
さて、最後は。
「皆野さん、今回だあたしだけ手作りじゃないんすよ……」
ほんのちょっぴり自信なさげな春野だな。
いや、別に手作りお弁当大会をしているわけではないので気にすることはないんだけども。
「春野、持ってきてくれたその気持ちが嬉しいんだよ。いただくぞ」
「あ、ちょっと待ってほしいっす」
春野が持ってきていたスプーンを手に取りオムライスを食べようとすると、ストップが入る。
まさかのお預けにキョトンとしていると、春野は鞄からお弁当用のケチャップを取り出しマジックカットを切った。
「その、手作りはまた作るっす。でも、ほんのちょっとだけ手作りにするっす……」
春野は耳まで真っ赤にしてケチャップをオムライスの上にかけ始めた。
なみせんのように塗っているわけでもない。……これは?
「な、そんな手があったなんて!」
「その発想はありませんでした……」
なにやら翠と真白は春野のケチャップアートを見て動揺の声を漏らしている。
オムライスには春野の手によってでかでかと♥が描かれた。なにこの気恥ずかしい感じ。
「ま……お母さんに、お礼するならこういうのが男の人は好きって言われたっす……。その、皆野さんは好きっすか?」
「え、えとその、嫌いじゃないぞ」
照れながら♥を描いた春野につられて俺もまた照れながらも嫌いじゃないことは伝える。
嫌いどころか、むしろ好き。嬉しいくらいだ。
俺の返答を聞くと、春野は一瞬驚きすぐに輝く笑顔を見せた。
「良かったす! ママに感謝っす!」
俺の返答に浮かれたのか、お母さんと言わずママと言い切って春野は歯を見せて笑った。
なんというか微笑ましい奴だ。
俺はほんの少し微笑みつつオムライスを口に運ぶ。
……愛があればラブイズオーケー。そう言い聞かせてオムライスを咀嚼した。
「蒼司、せんべいでも食ったのか?」
俺の隣に座る魅墨には音が聞こえたのかもしれない。
バリボリと咀嚼してオムライスを喉に入れた俺は魅墨の言葉にこくりと頷いた。
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