第31話素直に褒めることはできない
今の状況を俺はなんと言えばいいのだろうか。
俺は今、生徒会室にて正座をさせられていた。
目の前には仁王立ちして腕を組んでいる黄島先生が、何も言わずに俺を上から睨みつける。
事の発端は、黄島先生に日堂の問題解決しましたと送ったラインからはじまる。
日堂の引き渡しの事もあったから、赤裸々に放課後の出来事を送って数分後事情が聞きたいから生徒会室に一人で来いと告げられた。
そこで春野と真白に日堂を任せてとりあえず支援部に向かわせ、俺は一人生徒会室へと赴いた訳なのだが、辿り着くや否や黄島先生はただ一言。
「座れ」
地面を指差す黄島先生にただただ圧倒されて、俺は正座をするのであった。
そして現在に至る。
沈黙が苦しい。なんか言ってくれたらいいんだが。
「……私は、お前を怒らなければならない。なぜかわかるか?」
「俺が、危ない事をしたからですよね?」
「そうだ。今すぐ怒鳴りつけてやるべきだと思うし、許されるならお前をはっ倒してるよ」
黄島先生は俺を睨みつけながら、低い声で手をバキバキと鳴らす。
言っている内容的にかなりお怒りのご様子。
やばい、本気で殴られそうだ。二、三発もらう覚悟はした方がいいかもしれない。
日堂と対峙した時にはなかった恐怖が背筋を伝って身震いをおこす。
ゴゴゴゴと、漫画的表現で怒りのオーラが黄島先生の背中あたりから溢れている錯覚を起こすが、黄島先生はバキバキ鳴らしてた手をそっと下ろしオーラが消え去った。
「だが、本来なら教師が解決すべき事を解決したお前を褒めてやりたいとも思ってしまっている。よく近藤を守ったと言ってやりたいんだ。でもな、私が褒めると容認した事にもなる」
黄島先生は、ほぼ褒めているような言い方で俺のした事を評価した。
絶対怒られると思っていただけに、黄島先生からのその言葉に正直面食らった。
「だから、私は怒る事も褒める事もしない。だが、一言だけ言えるならば、無事でなによりだ。ここから先は私に任せなさい」
「え、事情を聞くとか、そういうことは?」
「お前は明日でいい。今から日堂に付きっ切りで聞く事にする。それよりも今は、近藤と妹に付いていてあげるといい。近藤は被害を被ったし、妹も事情を知る事だろう。二人のケアがまず最優先だ。話を聞くなんてそのあとでもいいんだ」
黄島先生は、俺達への事情聴取を明日に回して俺に妹達のケアを優先する提案をしてくれた。
本当にいいのか? 事情聴取した方がいいのでは? と思ったのだが、先生は俺に向かってしっしっと手を払った。
行けという事なのだろう。
俺は腑に落ちないまま立ち上がると、なんとなしに黄島先生にぺこりと頭を下げた。
「許すのは今回だけだぞ。次からは私がきちんと動く。だから、今回は、その、なんだ。お疲れさん」
先生はそっぽを向いて、ツンデレか! とツッコミたくなるような台詞を吐いた。
褒められないなりに、褒めてくれたのだろうか。ここでありがとうございますというのもなにか変だろうか。
目には目を、ツンデレにはツンデレをで返そう。
「黄島先生、素直に『よくやった。流石は自慢の生徒だ』くらい言ってもいいんですよ?」
「いいから早く行け。あと、とりあえず春野とお前で日堂だけ連れて来てくれ」
「はーい」
黄島先生に怒られながら、指示に素直に頷くと、生徒会室を後にした。
怒られるとは思ってたけど、思ってた程じゃなくて良かったかな。
さて、さっさと引き渡しを終えて黄島先生のもう一つの指示を終えますかね。
俺は少し足早に、支援部の部室へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます