第23話真白は自分を大切に

 その日の夜の事。春野の写真を暴露してしまった事についての謝罪と、春野に協力要請のラインだけ入れようとスマホを開く。


 特に謝罪については念入りにだ。


 翠のやつ、暴露のあとしばらく春野に対して桃子さん呼びして敬語を使ってたからなあ。多分春野はショック受けちゃってるだろうし。


 だが家に帰った後、翠にきちんと今の春野は昔の春野と違う事を伝え、気兼ねない今まで通りの付き合いをするようお願いはしておいた。


 翠自身も、驚いたから敬語になっただけだし、明日からは大丈夫と言ってくれたからな。それも踏まえて伝えておかないと。


 俺はラインから春野のトーク画面を開き、文章を打ち込み始めた。


【春野、今日は写真を翠に見せてすまない。まさかあそこまで翠が驚くとは思わなかった。だが、翠には春野が変わったから大丈夫な事は伝えておいた。それに、翠自身驚いたから敬語になってたけど、明日からは大丈夫と言っていた。とにかく、申し訳ない】


 魅墨並みの長文になってしまったが、春野に向けて謝罪を送信する。


 協力要請はとりあえずこの後。まずは春野の心のケアをしないと。


 送信して一分もたたない内にラインの通知音が鳴り響いた。早いな。まるで魅墨じゃないか。


 俺はラインを開くと、春野のトーク画面は未だ未読のままだった。


 他の奴か。俺は春野のトーク画面からトップ画面に戻ると、真白からの通知が来ていた。なので、そのまま真白のトーク画面を開いた。


【蒼兄、黄島先生から支援部の活動休止理由を聞きました。翠は大丈夫ですか?】


 真白からのラインは淡々とした文章だ。なんとも真白らしい、要件のみのライン。


 そして、自分も危ないかもしれないのに翠を心配しているところもなんとも真白らしい。


 普段は嫌いあってるくせにな。こんな時はいつも真白はお姉ちゃんぶってやがる。


【そうか、わかった。真白、気をつけてくれな。翠は大丈夫。こっちで助けるから。心配してくれてありがとうな】


 俺も真白と同様事務的に返す。もちろん、翠の事を心配してくれたお礼も添えてだ。


 真白はちょうどスマホを持っていたのかすぐに既読がついた。真白は魅墨と同じくらい返信は早いしすぐ返ってくるだろう。


 そう思っていると、既読がついてほんとに間も無く返信が返ってきた。


【蒼兄が守ってあげるなら安心ですね。私の事は大丈夫です。今は翠の事を考えてあげてください】


 魅墨と違ってそれ程長くない文章だから、真白の返信のスピードも納得出来る。というか魅墨のあの文章量であの返事の速さはおかしいんだよなあ。


 ……いや、まあ魅墨の返信スピードのおかしさを語る前にだ。真白ってば自分の事を置いて翠の心配をしてやがる。


 お前も充分危ないといえば危ないんだぞ。


 真白は従姉妹姉妹いとこしまいの長女だからか常に自分を二の次にしてしまうんだよなあ。


 まったく、自分の事を心配するようわからせてやらないとな。


【真白、人の心配より自分の心配をしろ。俺からすればお前の事も心配だ。お前は翠より年上だからお姉ちゃんとして心配してるんだろうが、俺からすればお前は妹みたいなもんだ。お前に何かあると嫌だ】


 これでよし。


 なんだか今日の俺のラインは魅墨が乗り移っているようだが、気にせず長文のラインを真白に送信をする。


 昔から真白は甘え下手というか、なんというか。もっと自分の事も考えるべきところでは考えて欲しい。


 その願いを込めて打った文章にすぐ既読がつき、これまたなかなかのスピードで返信が返ってきた。


【蒼兄が心配してくれて嬉しいです。では、何かあった時は助けてください。これでも怖いんです。不安のなくなるようお願いします】


 ちょっとだけ甘えてくれたかな。真白の文章は堅苦しいけども、ほんの少しだけ俺に甘えようとする意思が見てとれた。


 俺は安心してホッと息を吐くと、すぐさま返信の文章を打ち込んだ。


【何かあった時は電話でもラインでものろしでもなんでもいい。助けを呼べばすぐに駆けつけてやる。なにせお兄ちゃんだからな】


 学校では蒼兄と呼ばれるのには抵抗があるものの、昔から蒼兄蒼兄と呼ばれてる分真白も従姉妹とはいえ妹みたいなもんだ。


 大事な妹は守る。そんな意思を込めて返信を打ち込んだ。


【ありがとうございます】


 また、すぐさま真白から返信が返ってきた。お礼の言葉がたった一文だっが、真白が俺を頼ってくれたのがすごく嬉しい。


 俺はクマがサムズアップしているスタンプを送って、満足してラインからホームへと戻っていった。


 そして、すぐさまラインの通知音が鳴った。また真白か? 一区切りついたと思うんだけど。


 俺は閉じたラインを再度起動させると、春野からの返信があったようだ。


【皆野さん、もう怒ってないっす。いつかは翠ちゃんにも伝えようと思ってたっす。だから、逆に伝える機会をくれてありがとうございます】


 良かった、春野は怒ってないらしい。


 むしろ逆に感謝されていて、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


【良かった、許してくれてありがとう。あとさ、ちょっと謝罪がしたかったのと、もう一件用事あるんだけどいい?】


 俺も春野が許してくれた事に対して感謝を打ち込み、そのまま翠の護衛の話題に切り替えた文章を春野に送った。


【全然怒ってないから大丈夫っす! それより、用事ってなんすか? 私が役に立てるならなんとかするっす】


 五分くらいして、春野から頼もしい返信が返ってきた。流石は俺の後輩だ。頼りになる。


【すまない。まず、春野にはこれから翠となるべく離れず学校で過ごしてほしい。噂で知ってるかもしれないが、三年の日堂先輩に翠が目をつけられててな。だが、翠には言えない。不安を増やすだけだからな。たから、守るのを手伝ってくれ。春野だからこそ頼りたい】


 俺は謝罪と協力要請を打ち込んで、春野に送信した。


 春野を信用してる事をわかってもらうために、頼りにしているの一文も付け加えた。


【噂は耳にしてるっす。まさかそんな事になってるなんて。わかったっす。それに、皆野さんが頼ってくれるなら私の返事は一つしかないっす。もちろんっす!!!!!!!!!!!!!!!!】


 春野から返ってきた返信は、これでもかと言うほどエクスクラメーションマークがびっしりと打ち込まれ、やる気の表れがひしひしと伝わってきた。


 これで翠については登下校は少なくとも俺が、学校内では春野が目を光らせる事ができるだろう。


 真白についても登下校は黄島先生、学校内は俺、生徒会では魅墨が目を光らせる事ができるはずだ。


 付け焼き刃かもしれないけれど、結構上出来な布陣ではなかろうか。学校生活の間はある程度の無事が約束できそうだ。


 日堂、返り討ちにしてやる。と、日堂さんの報復は確定してるわけでもないのに気合満々で決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る