第13話最強の女は怖がられたくない

 真白vs翠の対決はというと、早々に決着を迎えた。


 不意に扉が開いて、来訪者が現れたからだ。少し勝気なツリ目で、背筋を正し、黒のポニーテールを揺らす副生徒会長土方ひじかた 魅墨みすみその人だった。


 睨み合う真白と翠に気付いた土方さんが、頭を抱えてしまった様子に仲間意識を感じた。土方さん、俺と春野はあなたの味方です。


 土方さんはつかつかと真白の方へ歩み寄ると、真白の脳天目掛けて手を振り落とした。パチーンと大きな音が部屋中に鳴り響き、真白が頭を抱えて悶える。


 俺と春野と翠は目を見合わせて、あの人殴った? と目の前の光景を信じきれず唖然と見つめていた。


「うおお……。み、魅墨、私が馬鹿になったらどうするんですか……」


「真白、お前は馬鹿だからこれ以上馬鹿になりようがない。迷惑かけて更生のために支援部にぶち込まれたと思ったらここでも迷惑かけやがって。皆さん本当にすみません」


 涙目で抗議をする真白に、土方さんは男勝りな口調で淡々と抗議をぶった斬った。そして俺達の方を向いて、頭を下げた。


「いや、とんでもない。むしろ真白が迷惑をかけてるみたいで。俺が土方さんにいつか謝らないとな。と思ってたくらいです」


 確か土方さんとは別クラスの同学年だったと思うが、さっきの光景に少し恐怖したらしい。俺は敬語で釣られて謝った。


「……じゃあ皆野くん、今回はお互い様って事でいいかな?」


「そうしましょうか」


「皆野くん、そんな怯えたように敬語は使わないでくれ。同級生だし、その、女の子なんだから怯えられると……」


「あ、ああ、すまない。じゃあ、遠慮なくタメ口でさせてもらうよ」


「ありがとう。仲良くしてくれると嬉しいな。ほら、こんな見た目で怖くて近寄りがたいと言われてるからさ」


「もちろん。真白の事もあるし、仲良くしよう」


 俺は土方さんと固く握手を交わして、友情を深めあった。正直会話自体はそれ程した事はないけれど、何故だか仲良くなれそうだ。


 そう思うのは真白のせいだろう。間違いなく。


「で、魅墨はどうしてここに来たんですか?」


 俺達の友情に割って入り、頭を撫でている真白が土方さんの来訪理由を尋ねた。


 確かに何故に来たんだろう。そう思って土方さんの方を見ると、物凄い怖い顔で真白の事を見つめていた。


 怖くて近寄りがたいと思われてる理由はこれだよ、間違いなく。友人として伝えてあげたいが怖くて伝えられない。今しがた固く交わした友情の握手がクライシスしちまう。


「真白、今日は生徒会で会議の日だろう! というか、お前が呼んだんだぞ! 支援部との服装指導だから初日は反省会だって言ってただろう! 一番反省しないとダメなのは、お前だ!」


 土方さんはもはやスーパーサイヤJKと化し、怒り心頭に発していた。はじめて見たかもしれない、こんなやり込められてる真白を見るなんて。


 真白は弁がたつ。だから、翠に何を言われても言い返しているが、土方さん相手では何も言い返せていない。友人でもあり、天敵なんだろう。


「そ、そんな怒らなくても」


「私以外が怒らないから怒ってあげてるんだ。ほら、行くぞ。今日はみっちり反省させてやる。じゃあ、皆さん失礼しました」


「うああああ! 蒼兄、助けてえええええ」


 涙目でおずおずと土方さんに怒りを抑える要求する真白だが、もはや焼け石に水。土方さんの怒りは収まらず、真白の襟首を掴んで引きずり出した。


 真白の断末魔が鳴り響き、俺に助けを求めていたが俺は何もしてやれない。ただただ手を振り見送った。


 そして、断末魔が聞こえなくなった頃、一言も発さなかった、いや、発せなかった春野がボソリと呟いた。


「……すごかったっす」


 俺と翠は、その一言に激しく同意した。今の俺達の気待ちは満場一致だろう。土方さんだけは怒らせてはいけない。


「私、今後はおとなしくする。あの人出てきたら勝てる気しないもん」


 翠は先程の光景を思い出したのか、少し身を震わせて反省を口した。


 あの、翠にすら更生の言葉を吐かせる始末。もう、全部あの人に任せちゃえばいいんじゃないかなあ。


 黄島先生に進言してもいいかもしれない。土方さんはそれ程の効果を持ってる。


「秋田県にはなまはげってあるじゃん? 悪い子はいねがーってやつ。今後翠が喧嘩したら呼ぼっか」


「お兄、それだけはやめて下さい! 心からお願いします!」


 実の妹に敬語で懇願されてしまい、内心複雑な気持ちになる。友情を誓い合ったが、仲良くしていたら翠を怯えさせてしまいそうだ。


 ガタガタ震えている翠を見つめて、土方さんの圧倒的パワー垣間見た気がした。


「……なんか、嵐が去った感じで、今からなにかする気分じゃないっすね」


「……だな。帰るか」


 春野に同意して、本日の支援部の終了を決定する。


 色々とボリュームがありすぎて本日の活動をしようにも元気が全部持っていかれたようなそんな感じ。


 まあ、支援部としての活動は今のところ服装指導の手伝いと、真白と翠の更生だけだ。


 手伝い自体は朝だけだし、真白と翠の更生はなんかもう土方さんに任せれば良い気がする。


 ……まあ、更生は土方さん任せは冗談だけど、真白がいない以上今進められそうな事はない。


 とりあえず本日の支援部の活動は切り上げる事で決定し、俺達は帰宅するのであった。

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