第11話支援部に吹き荒れる嵐
その日の放課後の事だ。いつも通りに支援部の部活に着いた俺は、呑気に座ってお茶を啜っている春野に無言で近付いていく。
俺に気付いた春野が、挨拶のない俺に首をかしげた。
「どうしたんすか? 皆野さん」
「そおいっ!」
「あいたっ! なにするんすか!」
「いや、朝の怒りをぶつける八つ当たりに他ならない。同じ支援部なのになんだこの格差は」
かたや、副生徒会長と何事もなく服装指導を終えた春野。かたや、真白と何事しかなく服装指導が終わっていった俺。
理不尽な怒りのぶつけ先がなかった俺は、まあ、春野でいいやとやってしまった。反省はしていない。
「むしゃくしゃしてやったとか、通り魔の言い訳じゃないっすか……」
「俺は朝から通り魔に刺されたくらいの衝撃的事件に巻き込まれてたけどな」
「あー、まあドンマイっす。お昼、翠ちゃんと食べたっすけど、めっちゃ不機嫌だったっす」
春野は腕を組んで、俺の心中察するかのようにウンウンと頷いた。不機嫌な翠の面倒を春野が見てくれていたのか。
機嫌悪い時の翠なんて、俺からすれば導火線に火がついた爆弾みたいなものだ。それと共に過ごしてくれるなんて春野はなんて良い奴なんだろう。
翠、良い友達を持ったな。
「春野、翠ケアしてありがとうな」
俺は、翠の面倒を見てくれた春野にお礼をする。
すると、春野は一瞬キョトンとして、むず痒そうに頬をかいた。
「まあいいっすよ。一緒に食べたからお弁当シェアできたんで楽しかったっす」
春野は翠とのご飯が楽しかったと言って、機嫌悪い翠と過ごすのを気にしてないご様子。兄としてはホッとする。
「おーい、揃ってるかー」
春野にお礼を言っていると、黄島先生が来襲した。いつもであればよっぽど用事がなければ来ないのに。
「うん、揃ってるな。じゃあ新部員紹介するぞー。入れー」
なるほど、よっぽどの用事だ。
俺と春野がいる事を確認した先生は、とくにどういう生徒が入って来るかとかの説明なく、新入部員の入室を許可した。
春野以来の新入部員。春野は入った理由があるだけに、他の生徒がこんな部に入るとは思ってなかった。
春野並みの物好きだなあ。一体誰だ。と、入ってくるであろう扉を見つめると、扉から二つの影が入室してきた。
その瞬間、ポカーンと口が開く。開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。
「一年生の皆野 翠。よろしくです」
「二年生の近藤 真白と申します。よろしくお願いいたします」
見知った顔が、見知り過ぎている顔が二人並ぶ。
翠はふてぶてしくブレザーのポケットに手を突っ込んで、自己紹介をしてから会釈程度に頭を下げた。
一方、真白の方は背筋を正して自己紹介をすると、ぺこりとお辞儀をした。
「さて、一気に部員も増えて賑やかになったわけだが、これから頼むぞ。じゃ、帰るわ」
黄島先生は特になんの説明をする事なく、紹介だけすませて部室から立ち去ろうとする。
あまりにもしれっと帰ろうとしたので一瞬ぼーっとしてしまったが、流石に説明がなさすぎる。
俺は急いで追いかけて、立ち去ろうとする先生の腕を掴んだ。
「ふふふ、黄島先生。ちょーっと待ってくれませんかねえ」
「皆野。先生がいなくて寂しいのはわかるけどさ、場所は弁えてくれ。いや、強引なのは嫌いじゃないけど生徒の目がある」
「そういうのいいから説明して下さい」
「ったく、ノリが悪いなあ。まあ、廊下で少しだけな」
黄島先生との疲れるやり取りをぶった切って、説明を求める。絶対面倒だと思ったから去ろうとしたやつだ。
案の定先生は面倒そうに了承して、廊下へと出て行く。俺もそれに習ってついて行く前に、春野に声をかけた。
「わかればいいんです。あ、春野、二人に部の説明をしておいて。俺は少し黄島先生と話があるから」
「了解っす」
春野の返事を聞いて廊下へと出て行くと、黄島先生が早く扉を閉めるようジェスチャーしていた。
何か聞かれてまずい事でもあるのだろうか。とりあえず指示に従って扉を閉めた。
「ふう。突然すまんな」
「黄島先生が突然なのはいつもの事じゃないですか」
「相変わらず皆野は口が悪いな」
「あいたっ」
黄島先生に悪態をつき、黄島先生は俺のおでこにチョップを落とす。訴えたりしたら教育委員会とかの問題になりそうだが、俺からは訴える事はない。
黄島先生は基本的に適当人間だが、ちゃんとしてる時は尊敬できる先生だ。そうでなければ支援部なんて作る時点で断る。
今回の二人の入部も、先生の考えあっての事だろう。
「率直に言うが、あの二人を変えるには荒療治をするしかない。私の監視下にあの二人を置く」
「正気ですか?」
「そこは本気ですか? と聞け。まあ、本気だ。中途半端にするよりも、同じ空間でとことんやり合わせればいいんじゃないかなと思ってる」
「……そんなんで変わりますかね?」
「変わるだろう。春野を変える事が出来たお前だ。信頼してる」
黄島先生は俺の肩に手をポンと置いた。まったく、この先生は人をやる気にさせるのがうまいもんだ。その力を自分のやる気にも向けたらいいのに。
黄島先生に言われたらやるしかない。
「期待はしないで下さいね」
「ははっ。期待しかしてない」
黄島先生は去り際に、思い切りプレッシャーをかけて俺の頭をくしゃくしゃに撫でると、支援部に背を向け職員室へと帰って行った。
残された俺は、厄介な事を押し付けられたもんだと思ったが、期待された以上は仕方ない。
入れられたやる気スイッチを胸に、支援部の扉を開いた。
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