第3話妹VS従姉妹
少し翠と春野に対して距離を置きながら登校。正確には三歩程距離を置いて。
ストーカーしてるような距離ではあるが、断じて違うという事は宣言しておく。
これは一緒に登校しているだけだ。やましい事なんてこれっぽっちもない。
「桃、また焼けたんじゃない?」
「そうっすかね?」
「うん。小麦色に焼けてるよ。なのに肌綺麗なの羨ましいんだけど。スキンケアしてるの?」
「なにもしてないんすけどね? まあ、綺麗と言われる分には嬉しいっすね」
「えー、そうなの? いいなあ」
目の前では、翠と春野が俺の悩みを知る由もなく、別のお悩み相談をしていた。どうやら翠はスキンケアを気にしているらしい。
そんな気にするような年齢か? と思うけど、女の子はいつでも大変なんだろう。
春野は特にスキンケアなんてしてないようで、何もしてないと言って軽く綺麗に小麦色に焼けている腕を撫でていた。
運動部でもないのに小麦色に焼けたその肌は、実は春野にとってコンプレックスとは言ってたんだけどなあ。
そんな春野が気にしなくなってるなんて、先輩としては嬉しい限りだ。俺は腕を組んで感慨深く頷いた。
「まあ、強いて言うなら昔程気にしなくなってストレスがなくなったからっすかね? 皆野さんに褒められてから、この肌の事も好きになれたっす」
春野は頬に手を当てて、嬉しそうに肌の状態が良い理由を分析する。
成る程。確かにコンプレックスに感じていた春野に対して、俺はその肌好きだけどな。と言った。
もし、それが春野のストレスを軽減させられたなら嬉しいじゃないか。照れるけど。
俺はちょっとむず痒くなった頬をかいて照れていると、ふと刺さるような視線を感じた。
その視線の先にはジロリと俺を睨む翠がいた。
今の話の中にどうして翠が機嫌が悪くなる理由があるんですかねえ?
理由のわからない翠の怒りに俺は視線を外した。
「へえ。お兄ちゃんそんな肌褒めることあるんだ。私、褒められた事ないけど」
え、翠さん。数年間俺の事邪険に扱ってたじゃないですかー。やだー。
翠は自分が肌を褒められた事がない事に大層ご立腹で、低い声で褒められた事がない事を強調した。
「え、翠ちゃんの肌もすごく綺麗じゃないっすか。その白い肌すごく憧れるっす。ね、皆野さん」
「あ、ああ。翠も本当に綺麗な肌だよな。その、白くて頑張ってスキンケア? とかしてるんだろうなって思うし」
春野のアシストパスを逃す事なく受け止めて、翠を褒めちぎる。実際翠の肌は綺麗だし、白くて美しいとも思う。
語彙力がない褒め方で問題ないかはわからないが、出来うる限り機嫌を取る。すると、みるみる翠は頬を赤らめ、恥ずかしくなったのかそっぽを向いた。
「ま、毎日スキンケアしてるから当たり前。そんな、妹をジロジロ見るなんてちょっと気持ち悪い」
どう褒めるのが正解だったんだ。褒めたら悪態をつかれてしまい、心がげんなりとする。
はあ、褒め損だったかな。と、肩を落とした俺に、そっと春野が近づいて来て俺に耳打ちしてきた。
「皆野さん。翠ちゃんあんな事言ってるけど、めっちゃご機嫌そうっす。頬が赤い時は照れてるっす。良かったっすね」
どうやら春野曰く、今の態度こそ翠がご機嫌な状態らしい。
まあ、確かに顔真っ赤だしな。白い肌に映える事映える事。
冷静に春野に分析されてる事をしらず、翠は俺に罵倒の言葉を吐いているが、それが照れ隠しと思うと少しだけ笑えてしまった。
でも、何笑ってるの。と言われても困るので、見えないように俯きながら歩き続けた。
「おはようございます」
随分と話しながら歩いていたので、我が母校、
校門前には生徒会の面々が挨拶をしており、一際目立つ声が俺の耳に届いた。
その声の主は、黒髪で腰まであるロングヘア。制服はぴっちりとボタンを緩める事なく着崩す事もない。
その細い足にニーハイが映える生徒会長、
「げっ、真白がいる」
翠は真白に気付いて露骨に嫌そうな声を漏らした。
真白は翠にとっての天敵で、いつも制服の着崩しについて注意されている。
じゃあ、制服を着崩さなければいいんだけどなあ。
まあ、それ以外にも昔から翠と真白は仲が悪かったし因縁の相手でもあるんだろう。
「おはよう……あ、
「おはよう。真白、学校では蒼兄はやめてくれ。蒼司でいいから」
「あ、そうでしたね、すみません」
真白は俺に気付いて、声をかけるが、俺はその呼び方に顔を赤らめ呼び方を変えるように促す。
俺と真白は同学年ではあるが、いとこ同士で真白が誕生日が三月、俺が十二月生まれである。
その為昔から蒼兄と呼ばれ、今でも癖づいて呼ばれてしまうのだが、やはり学校では恥ずかしい。
俺が呼び方を変えるようにお願いすると、真白はハッとして頭を下げた。
「謝る程ではないぞ。気にするな」
「そうですか? 流石は蒼兄。心が広いです」
また蒼兄って言ってる。とつっこもうと思ったが、また謝られても申し訳なくなるので、グッと言葉を飲み込んだ。
まあ、こればかりは本人の慣れしかないからな。
「ちょっと、お兄ちゃんが蒼兄って呼ばないでって言ってるじゃん。生徒会長ともあろう方が注意された事直さないとダメじゃない?」
俺が飲み込んだ言葉を、純度百パーセントの悪意を足して翠が真白にぶつける。
真白のこめかみがピクリと動いて、ジロリと翠を睨みつけた。
もー、せっかく我慢したのになんでややこしくしちゃうかな。
「ああ、これはこれは翠ちゃん。すみません。ついうっかり。それはそうと翠ちゃんの服装注意して十回以上なんですが、いつまでも治らないなんて赤ちゃんでちゅか? 言葉わからないんでちゅか?」
「ああん? わかりますけど! この着崩しはファッション!」
「へー、そうなんでちゅか。ダメな事をわかっていながらするんでちゅか」
「その喋り方むかつく!」
登校中の生徒達がざわつき始めて、口論をおっぱじめる翠と真白を遠巻きに見つめる。かすかに聞こえる声には、またか。という声がちらほら。
「また始まったっすね。あの二人の喧嘩」
「まあ、昔から仲悪いからな」
「最早名物っすよ」
「同じ血が流れている者としてすごく恥ずかしい」
蚊帳の外となった俺と春野は、遠巻きに紛れて校舎に向かいながら二人の口論についてぼんやりと話す。
昔っから親戚の集まりがあったりすると真白と翠は喧嘩していた。それが高校でもやりあっているのだから、家族として親戚としてすごく恥ずかしい。
「まあ、なんで争ってるか理由はなんとなくわかるっすけどね」
「本当か? だったら春野、止めてくれよ」
「うーん、止めれるとしたら皆野さんだけっすから。あたしはこの蚊帳の外で、虎視眈々と行かせてもらうだけっす。じゃ、お先っす!」
春野は意味深な事を言ってニヤリと笑うと、上靴に履き替えて一年の教室のある階へと向かって行った。
俺は春野が言ってる意味を理解する事が出来ず、頭を捻りながら上靴に履き替えた。
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