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姉の名前はモモという。
漢字で書くと〝百〟なのだが、姉はこの名前が好きじゃなかったらしく、テストや重要な書類を書くとき以外は、自分の名前をカタカナで書いていた。
姉は絵に描いたような優等生タイプで、勉強も運動もなんでも器用にこなし、両親からも愛され、友達だって多かった。
おまけに美人でスタイルもよく、異性からは常に注目を受けていた。
欠点という欠点のない姉に比べて、私は欠点が目につく出来損ないだった。
私自身は、べつに自分を出来損ないだとは思っていないのだけど、私が人並か、それ以上にできていることであっても、姉と比較されるとすごく劣って見えてしまうから不思議だ。
少なくともそうした周囲の反応は、私を傷つけ、落胆させたし、だから私はいつも姉と比較されることに辟易していた。
そして姉ができない人だったら良かったのに、とか、そうだったらもう少し楽に生きられただろうな、とか、寝る前などによく考えたものだった。
私の名前はつくもという。
漢字で書くと〝九十九〟。
こんな皮肉なことってないと思う。
私は自分の名前でさえ、百まで一つ及ばない。
名前についていえば、私も姉と同様大嫌いだったから、テストや重要な書類を書くとき以外は、自分の名前はひらがなで書いていた。
本当、両親のネーミングセンスを疑ってやまない。
私と姉は、中学に上がるころには会話をしなくなっていた。
最後に話した内容も、いまとなっては覚えていない。
基本的に食事は一緒にとっていたけれど、でも一緒にいるときでさえ、学校で何があったとか、友達とどこに行ったとかそういう気軽な話はしなかった。
というのも、私が姉を避けていたからで、これに関していえば姉に非はない。
私は姉に話しかけてられたくないが故に、ぶっきらぼうな態度でとげとげしいオーラを放ち、できるだけ早くご飯を食べてすぐ自分の部屋に引き上げていたのだ。
なぜ姉に話しかけられたくないのかといえば、姉と話していると大概父と母が割り込んできて、姉と比べて私はなってないということを飽きもせず話して説得しようとするからだ。
私はそれがうっとうしくて仕方がなかった。
だから、より適切に表現すると、私は姉自体が嫌いだったというよりは、姉の近くにいると嫌みを言われたり比べられたりすることがあまりに多かったから、無意識に姉と一緒にいることを避けるようになってしまったのだ。
しかしそんなこと姉は知らないわけだから、姉からすると、私に嫌われていると映っていたのかもしれない。
そんなこんなで私と姉はお互いに変な距離を取り、その埋め方がわからないまま歳月を重ねていってしまった。
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