第3話

森の奥にある洞窟の中で、リトは少女に手当て受けていた。フォレストウルフ、アビス、リノ、ロゼ達は遠巻きに距離を置いている。


「これで止血も済んだし大丈夫」


少女はゆっくり立ち上がった。


「すまなかったな人間」と、フォレスト・ウルフが頭を垂れる。


「俺達が勝手に森に入って来たから悪いのさ。命があっただけでもありがたいよ」


リトは苦笑いを浮かべる。そんなリトを横目で見つめる少女。


「お前、名前は?」


「リト・ユグセル」


「リトか、私の名前はユーリだ。いきなり襲いかかってすまなかった」


「はは。それはロゼに謝ってくれよ」


ユーリはロゼに向き直る。


「ロゼ、すまなかった」


「あ、私は大丈夫だから。いきなり後ろを取られるのが悪いんだし!」


隣のリノが鼻で笑う。


「ロゼは用心深いのにあぶなかっしいからね。あたしを見習いたまえ」


「リノを見習ったら命がいくつあってもたりんわな。こないだもモンスターの群れに真正面から突っ込んでっただろ?」


横からアビスが口を出す。


「何をー!あんなモンスターの群れはあたしだけで充分だと思っただけだし!アビスのおっちゃんが出る幕なかったんだよ!」


「あの後、お前のせいで家は壊れるわで大変だったんだぞ」


「はぁ!あたしのせいじゃないもん!」


ユーリは軽く笑う。


「お前達は本当に仲が良さそうだな」


「ところで」と、リトはフォレスト・ウルフに視線を戻した。


「俺達はフォレスト・ウルフがいたことを国王には知らせたりはしない。もし、そんな事を報告してしまったらまた同じような事が起きるからな」


フォレスト・ウルフは沈黙したのちに呟いた。


「ありがとう」


大きく伸びをしながらフォレスト・ウルフは月明かりを眺めた。


「俺の寿命もあとわずかだ。そっとしておいて欲しいんだよ」


「不死身ではないんだな?」


リトは驚きを隠せなかった。


「いくら神でも寿命はあるさ」


フォレスト・ウルフは寂しそうに呟く。


「・・・そうか」


「なあ、人間。ユーリをお前らの国に連れて行ってくれないか?」


「この娘を?」


「この娘は昔、森の外れで捨てられていたのを拾ってきたんだ。ひどいもんさ。人間より俺達獣の方が愛情深いなんて皮肉だろ」


フォレスト・ウルフは続ける。


「俺が死んだらこの娘はひとりぼっちだ。頼むから連れて行ってくれ。ユーリには新しい世界が必要だ」


「私はここで暮らす」と、ユーリは呟く。


「俺の事は気にするな。この人間達に付いて行きな。元の場所に戻るだけさ。あるがままの世界にな」


「でも!私は置いて行くなんてできない!」


ユーリは大粒の涙をこらえている。リトは複雑な気持ちになった。


「いいから行くんだ、前に進む事を恐れるんじゃない」


ユーリは泣き出す。リトはユーリに語りかけた。


「また戻ってくればいいだろ?なにもずっと俺達の世界で暮らす事を強要しているわけじゃないんだ。だから」


ユーリが泣きながら小さく頷く。いつしか嗚咽は降り注ぐ月の光に吸い込まれていた。


「恩にきる人間よ、頼んだぞ」


フォレスト・ウルフは満足そうに微笑んだ。


世界の扉をこの少女が切り開く事を、今は誰も知る由もなかった。

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