第47話
結局、何がどうなっているのか良く分からないまま、俺は客室へと通された。食事は彼等とは別になるという事で、メイド長が謝罪していた。
それは勿論構わない。彼等もこれから色々話し合う事があるというのだ、邪魔をするわけにはいかないだろう。
用意された食事は豪華な物だった。どれも今まで食べたことの無いほど素晴らしい味付け。前世ですら味わった事無いぞ。
部屋にはなんと風呂まで備え付けられていた。メイド長の案内で紹介された時、是非利用してくださいと言われたので使う事にする。露天風呂を味わってからと言う物、ちょっと風呂の良さについて再認識してしまったのが大きい。
「⋯⋯ふぅ」
改めて、本日の出来事を整理する。だが整理しきれるのかコレは。ロザリアの家族は今の所友好的で、家長のゴルテオも俺を認めるとそう発言した。纏めれば短い話ではあるのだが、どこでどうなればそうなるのか、正直サッパリだ。わからん。
ともかくだ、認めてくれたという事は、今後もロザリアと旅を続けるという事が可能なのだろう。それならば一安心と言っていい。明日にはちゃんとお礼を言って、早速旅立たなくてはいけない。
シャルの事が少し気がかりだ。まだ3日目ではあるが、寂しくしてはいないだろうか?何か危険に巻き込まれていないだろうか、不安になってしまう。
出来れば早く迎えに行きたいが、行き違いになる可能性も考えると、この街に少し滞在した方がいいのだろうか?とも考える。ここまでの道が一本だったかどうかは確認できていない。もし別のルートを取ってしまえば2度と会えなくなる可能性だってある。
それなら、明日はとりあえず付近の地図でも手に入れるべきだろう。一本道なら安心して迎えに行ける。万が一複数あっても、それほど離れていなければ念話でカバー出来る筈だ。精霊もいる事だし、あまり心配し過ぎも良くないだろう。
『オルト、ちょっと部屋に行っていいかしら?』
ようやく気持ちの整理がついた所で、ロザリアから念話が届く。ラッキースケベ逆パターンすら許さない鉄壁の確認方法だ。風呂から上がるまで少し待ってほしい旨を伝えると、手早く上がって着替える。
「バスローブ⋯⋯だと?」
いつの間にか着ていた服が無くなり、バスローブへと交換されていた。完全にリラックスしていたとは言え、気配も感じさせずに脱衣所へと侵入し衣服を取り替えていくなど⋯⋯ただものでは無い。勿論、警戒をする必要は無いのだが、あまりの職人っぷりに舌を巻いてしまう。貴族に仕えるメイドというのは、皆このような技能を備えているのだろうか。
前世でも着たことが無いぞこんなの⋯⋯ていうか寝間着と言う物は無いのだろうか?このまま寝るのが正解なのか?それとも貴族のベッドは裸で寝る物なのだろうか。全然わからん。全然わからんが、これしかないと言うなら仕方ない。
「うおぉ」
ふわっふわだ。凄いな貴族。今の俺なら何にでも感動してしまいそうだぞ。これ、出来れば欲しい。滅茶苦茶欲しい。野宿じゃ着る事は出来ないが、宿屋に泊る時は是非これを着たまま眠りにつきたい。マジで。
——コンコン。
バスローブの感触に一通り感動しながら小躍りしていると、入り口の扉からノックの音が響く。ロザリアが来たのだろう、うっかりはみ出したりしない様に腰まわりを整えると、どうぞと一言声を掛ける。
「はいはいオルト君、遊びに来たよー」
おっと、ロザリアかと思っていたらそこに現れたのは姉のビルマさんだった。流石にこれには慌てるが、ロザリアも一緒に来ていたので助かった。
二人を部屋の中央にあるテーブルへと誘導すると、これまたいつの間にかお酒とツマミが用意されていた。さっきまで無かったような気がするんだが⋯⋯いつの間に?ちゃんと3人分用意されてる辺り、本当に怖い。
「本当は一人で来る筈だったんだけど、ここに来る最中姉さんに捕まっちゃってね」
「へぇ?二人きりで何するつもりだったのかにゃぁ?」
経緯を説明するロザリアに対して危ないツッコミをする姉。やだ、この家の人全員怖い。何で皆そんな感じなの?
深くはその話題には乗らない。とりあえず折角用意されているのだし、お酒を軽く嗜む事にしよう。今までは見かけなかった透明なグラス。こういう部分でも貴族という物を感じてしまう。うっかり割ったら大変そうだ。
グラスに開けたお酒は、濃い飴色をしていた。そしてほのかに香る林檎の匂い。この辺ではエールやワインと言ったお酒では無く、シードルと呼ばれる林檎の果樹酒が普及しているらしい。
「寒い土地じゃぁブドウはあんまり育たないからねー。林檎の方が育ちやすいし、品目が被らない方が輸出の際にも儲けが出やすいってねー!」
早速飲み始めたビルマさんは既に上機嫌だ。元々の性格なのか、酒によるものなのかは計れないが、おそろらくは後者なのだろう。ロザリアの反応を見る限りは彼女は酒に強くないという事が伺える。
「それで、一体何の用だったんだ?」
「明日のデートの話だよー。オルト君とロゼは、明日一日街を周遊する義務が課せられましたとさー!あははは」
食い気味で応えるビルマさん。ロザリアに発言させる気は無いとばかりに話題を進めていく。ていうか何?デート?一体何がどうなってそんな話になってるの?
「姉さん、ちゃんと順序を追ってお話しないと勘違いしちゃうでしょ」
「はいはい、ごめんねロゼ。お姉ちゃんついつい楽しくなっちゃってさぁ」
困惑するこちらに応える様に、ロザリアが説明を続ける。明日は、街の人々にロザリアが帰ってきたことを知らしめて欲しいというのが父ゴルテオの願いなのだそうだ。
家族間のわだかまりは消えた。だが、ロザリアと街の人はそうでは無い。だからこそ、街の雰囲気や噂話を払拭するために、是非とも街を歩いて欲しいという事だった。ロザリア一人が出歩くよりは、俺と一緒の方が良いだろうという事でそうなったのだと、彼女は申し訳なさそうに言う。
「そういう事なら大歓迎だよロザリア。俺も必要な物が結構あるし、買い物はしておきたいからね」
「あー、オルト君その呼び方禁止ねー。そんな呼び方じゃ他人の空似かと思われるじゃん?だからロゼって呼ばないとダメなんだよー!」
「えぇっと⋯⋯流石にそれは、せめてロゼッタと呼ばせて貰いたいんですが」
「ブー!だめでーす!家族以外とも愛称で呼び合える人が居るってのが大事なんでーす!ちゃんとロゼって呼びなさいよ、お姉ちゃん命令です!」
うわぁ、参った。このお姉さんはアレだ、絡み酒タイプだ。しかもまだグラス半分程度でこれとは。ちょっと厄介極まりない感じじゃないですか?
ロザリアを見やると、もう完全に降参しているといった表情だ。そういう事なら仕方ないか。ここで変に抵抗したところで意味は無いだろう。俺も諦めよう。
「そういう事だからオルト、明日もこの街に足止めになっちゃうけどゴメンね」
ゴメンは無し、とはちょっと言いにくいがまあ良い。折角デートだと言うのだから、いつぞやの追試だと思えば俺も汚名返上のチャンスという事だ。この街の事もサッパリ知らないからエスコート出来るかは分からないが、頑張ろう。
「それじゃ、私は姉さんを寝かしつけるからまた明日ね」
気づけばビルマさんはテーブルに突っ伏している。早すぎない?先ほどのお返しとばかりに軽くほっぺたをつねると、無理やり起こして肩を貸すロザリア。俺も手伝おうかなんて言えないのが悲しい所だ。
「やっぱり運びにくいわね⋯⋯よっ」
そう掛け声を掛けると姉をお姫様抱っこするロザリア。やだイケメン。
「おやすみオルト、良い夢を」
「ああ、おやすみ。また明日ね」
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