第7話
「お前は説明に夢中になってたせいで気付いてないようだが、やっぱり俺の元にわざわざ転生させた理由に説明がついてないんだよ」
チートスキル持ちを排除したいが神の力じゃどうしようもないってんなら、そいつらをやり合わせる方が早い。地球に戻せるならそれに越したことは無いってのは事実だが、俺やお前が直接戦う必要は無く、近くにいるだけでも充分な筈だ。と続けて言う。
「なら、俺なんかの元に来るより話の分かる転生者の元に行かせた方がいい。そいつとパーティでも組んで他の転生者を倒してもらうのが、最も合理的だと思わんか?」
最悪の場合、複製の俺を何度でも送り込んで説得、あるいは排除する手だってある筈だ。だがそれをしないのは理由がある、そういう事だろう。チートスキル持ちとはいえただの人間が世界の滅びに関与してるって事は、この複製能力も世界に悪影響を及ぼす可能性があるんじゃないか?と理論立てて説明を続ける。
「最も不安なのは俺たちが死んだ場合、複製の魂がどこへ行くか?だな。あるのかは分からんが
なるほどな、と
「俺たちが馬鹿で良かった。そういう話だよ」
皮肉なのか自嘲なのか、よく分からないがあまりにも爽やかな笑顔で笑いながら言うものだから、何となくその言葉に怒る気にはなれなかった。ともかく向こうは現在の状況に光明を見出しているという点が大きかったのかも知れない。
「さて、大体俺の中で方針は出来上がったから、とりあえず異世界モノでの定番と自己紹介でもやっとくか」
二人の自分で自己紹介というのも変な話だが、いい加減俺とかお前とかゴリラとかで形容するのも疲れてきた所だ。彼の提案に黙って頷く。
「ステータスオープン」
目の前の男がそうつぶやく、やっぱりあるよなソレ。だがこちらからは見えないって仕様はやっぱり基本に忠実のようだ。
こちらの視線に気付いたのか、ワクワクするだろコレ?と言いながら続けて「開示」と男は唱える。すると先ほどまでは何もなかった空間にウィンドウが表示される。
男はウィンドウの上部をつまむと、紙を裏返すかのようにこちらに向ける。便利な技術だなコレ。
「これが俺のステータスだ。隠蔽関係のスキルは使ってない、正真正銘の素のステータスだぜ」
確認するように
その中で異色に思えるスキルが1つだけある。
——『
「
はっはっは。とアインスは笑いながら答える。「そこはアレよ、中二病まっしぐらで"一は全なり、全は一なり"って感じのノリで付けた」だなんて。自分ではない自分の行動に、恥ずかしさを覚える。今なら顔から火魔法でも放てるんじゃないか?
目の前の男はアインスであり、ステータスにもそう表示されている。地球に居た頃の本名では無く偽名だ。なら俺はどうなっているのだろう?とこちらもステータスを開く。うん、我慢できなかったし、やってみたかったってのもある。
「ステータス、オープン。開示」
そこには
「14歳、てことは向こうの感覚だと13歳か。ピッチピチ(死語)だな!」
横からステータスウィンドウを覗いていたアインスが年寄りらしい感想を口にする。聞けばこの世界は数え年が主流であり、新年を迎えるたびに歳を取る方式らしい。そして15歳の成人を迎えると、適正職が与えられる仕組みになっている、との事だった。新年は地球で言う3月下旬頃で、1年で最も日が短い
しかし地球で言えば13歳とは⋯⋯去年までランドセル背負ってたとかいう年齢じゃん。ショタじゃん。
「お前も偽名を使った方がいいだろうな。本名じゃ転生者ですと名乗ってるのと同じだし、これからやる事を考えたら偽名の方が都合がいいだろう。本名を知ってるのは俺とお前だけだから、偽名で呼び合ってれば1週間程度でステータスに定着する筈だ」
そういうもんなのか。仕組みは良く分からないがそういう仕様なら有難い。
「なら、俺はオルトと名乗ろう」
「してその心は?」
「お前と俺とは同じ存在だがやはり違うという意味で、オルタナティブからの採用だ」
「立派な中二ネーム、乙」
さて、話を少し戻すぞオルト、とアインスが告げる。続けて茶化すような素振りが無いのは、そこでイジると自分にも返って来る
「まずは俺のステータスを見た上で率直な意見が聞きたい。コイツをどう思う?」
あまり意味は無いのかも知れないが、自身の貧弱なステータスと見比べながら、その能力を
「レベルキャップはどれくらいだ?この数値は高い方なのか?」
素朴な疑問を投げかける。3桁4桁が普通の世界であれば、雑魚と言えなくもない数値だからだ。
「レベルの最大値は99だと思われる。公的な記録では99に達した者も3桁に到達した者も確認できていない。魔族や魔獣と呼ばれるモノも同様だ」
それなら恐らくアインスのステータスは中堅程度かもう少し上になるだろうか。レベルキャップに到達して居ると思われる人物が存在しないのであれば、確認できている最上位レベルが気になる所。だが、今はそこまで突っ込んで確認する必要は無いだろう。他の部分についても気になった部分を挙げていく。
「随分と近接戦闘職に
レベル1の俺ですらMPは20もある。そこからたったの7倍程度と考えるとかなり少ないのでは無いだろうか。
「老化が原因で少なくなってるってのもあるが、使わない能力に関しては成長しにくかったり減少することもあるからな。ふむ、大体注目してもらいたい所に目星は付けて貰ったか」
少々回りくどい説明が続く。一般人がチートに対抗できる手段とは何なのか、早めに知りたい所ではあるのだが、この辺の説明は必須なのだろう。適度に相槌を打ちつつ続きを促す。
「つまり俺のステータスは一般人としてレベル上げした場合の上限に近いって所だ、全盛期で言えばレベルは58まで到達した。冒険者のランクとしては実績さえ有れば上位のAランクも夢じゃ無かったと言う所だな。そこまで行くと国や政治と絡む事も多くなるから、昇格はせずに引退した訳だが」
「そして、魔王と呼ばれる存在や、Sランク冒険者と呼ばれる者のレベルは最低でも70以上が目安となっている。無論、例外も存在してるが大体の目安として覚えておいてくれ。この中にはチートスキルを備えた転生者ではない者も多く含まれる」
あれ?一般人がチーターに対抗する手段の話じゃなかったっけ?聞いてる限りじゃちょっと無理臭くね?って感じがヒシヒシと伝わってくるんだが気のせいか?
「さて、ここまで聞いてお前は絶望してるな?レベルの差は圧倒的なステータス差。勝てないと思うのは当然だが、そこが盲点だ」
「この世界はゲームじゃない。HPが何万あろうが、首を
理屈は分かるがそう上手くは行かないだろう。見せかけとは言っていたが、ステータスにそう表示されるだけの理由が存在していると考えていい筈だ。弱点部分は装備や魔法なんかでしっかり守られていると考えるのが普通であり、そういった部分も含めて、HPという表示が存在しているのでは無かろうか?
「ま、今のは多少オーバーな表現だ。ステータスが全てではないって事をまず理解することが重要って話になるな。変に固執しすぎると動きが鈍る。倒せる相手ですら倒せなくなり、重くなった腰はいつまでも上がらなくなる」
実際にそういう冒険者は多いらしい。現状に満足し、経験値もロクに入らないような低レベルモンスターを狩り続けて日銭を稼ぐ事ばかりに夢中で、結果的にステータスを落としてしまい、今まで難なく倒せていたモンスターの相手すら苦労する事もあるのだとアインスは言う。強くなりたければ格上相手にどう戦うか、ステータス以外の部分で勝負しなければならない時が必ず訪れる、と。
そしてそれは逆のパターンもあり得る。特にチートスキル持ちと戦う際にはそれが
「ここまでの話は心構えの問題って事ね。だけど根性論じゃ敵対者は倒せないワケだし、その辺の本題をどうぞ、アインス君」
本題に入る前の注意事項、アインスが散々語ったその話の区切りがここである、と理解したので早速教えろとせがむ。なんせ同一人物が説明しているのだ。当然ながら話し方の癖はよく理解している。それと同時にこちらがそろそろ痺れを切らしている事も伝わっているだろう。
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