【緊急重版御礼SS】

バイレッタの妊娠がわかってからというもの、アナルドの態度は激変した。

いつもと変わらないと言う者は普段の彼を知らないのだ。いや、妻と彼のやりとりを知らないのだろうとバイレッタは考える。


けれど、それを誰に告げても相手は憮然とした顔をするのだから、バイレッタだとて面白くないわけで。


「あれほど口うるさく行動を制限されたことはなかったと思うのよ」

「レタお義姉様がご存じなかっただけかと。いえ、たぶんそれほど意識されていらっしゃらなかったのではありませんか」


普段、バイレッタに対して反論することの少ない義妹であるミレイナですらこの態度である。

それでも、まだましな部類だ。仕方なく、バイレッタは言葉を続ける。


「そんなことはないわ。廊下を一歩歩くだけで体を冷やすのはよくないと抱え上げられるのよ。こんなにつきまとわれたことはないわよ!」

「お兄様も相当ね……」

「そうでしょう!? だというのにお義父様ってば、前からああだったなんて全く取り合ってくださらないの。その上、アナルド様に感化されたのか知らないけれど、物凄く口煩くなってしまって!!」

「はぁ、なるほど……」


頷きながら、彼女は小さく笑った。


「ミレイナ?」

「いえ、お義姉様が珍しく素直に怒っていらっしゃるので、嬉しくて。いつもお兄様に文句を言うのは私の方でしたから。お義姉様が少しでも愚痴を溢せる相手になれたんだなぁと感慨深くなりましたの」

「何を言っているの、貴女はいつでも可愛い義妹よ!」


がばりと抱きつけば、ミレイナはお腹が潰れます!と目を吊り上げた。


「大丈夫よ、ちゃんと加減してるもの。ほら、隙間があるから潰れていないでしょう」

「もう、見ているほうがハラハラしてしまうんです。お義姉様が退屈なさっているのはわかりますが、もう少し御子にも気を遣ってくださいな」

「はい、わかりました」


そう答えながら、誰も彼もが過保護になってしまったとバイレッタは内心で苦笑する。


だが、結局それだけ生まれてくる子を楽しみにされているのだなと実感する。

窮屈になったけれど、昔描いていた苦しみのある不自由さではなくて、どこか温かみがあるからかもしれない。


だから生まれてきた子には、この楽しい生活を過ごさせてあげたいと願うのだった。


数々の不満を口にはするけれど、待ち遠しく思っているのは、バイレッタもおなじなのだから。

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