番外編⑥-7 永遠の変わらぬ愛を貴女に

「伝わりませんでしたか?」


不安げに揺れる瞳に、バイレッタは思わず慌てた。


「いえ、つまり、えと、とても嬉しいです」

「そうですか。よかった。着心地が大事ですからね。それで、まだまだたくさんあるんですよ。なのでお付き合いください」

「はい?」

「今日だけで何枚も使っていいですし、明日のお楽しみにしてもいいですね」


バイレッタはアナルドの言葉を反芻して、おもむろにガウンを開けた。中には確かに見慣れないシュミーズを着ている。精緻なレースを施されたものはいつもの下着だ。けれど形状が少し違う。


「今日はそちらを着ていただいたんですね。それは横にスリットが入っていて、リボンをほどけばここから手を入れられるんです」


言いながらアナルドはペラリと裾を引っ張った。バイレッタの脇を撫でつけるように手を差し込む。


「なっ…なっ…」


卑猥だ!


いつの間に自分の下着がこんなに卑猥なものに代わっていたのだろう。

いや、待て、彼は愛の証明だと言った?


「何枚、あるんですか…?」

「今は30枚ほどですね。レットが近日中にはあと5枚追加できると話していましたが」

「レット?!」


まさかの裏切り者の名前は自分の秘書だった。

一言も聞いていないが、一体夫と何をやっているのだ。


「結婚10周年記念に愛を証明するものを贈りたいと相談したら、いろいろと考えてくださって。俺が要望して、彼らが形を作ってくれました」

「彼ら?」

「レットとレスガラナですね」


よし明日職場に行ったらきっちりと問い詰めよう。

なんてことをしてくれたのだ。

レットはどういう意向かはわからないが、レスガラナは確実に面白がってやったに違いない。

給料の減給で手を打とう。


「貴女を想いながら生地から選んでデザインを考えて糸を合わせて……一枚一枚作るのはとても有意義な時間でしたが、こうして実際に妻に着ていただけると感無量ですね。橋よりも経費がかけられなかったのは残念ですが」


橋と比較するのはいかがなものか。比較対象が間違ってやしないか。

橋に名前を付けられるよりかは、夜の下着を贈られる方がいい。

いや夜の下着がいいのかは考えものだが。


「俺の妻はどうしても夫からの愛を信じてくれないので、形として証明してみました」

「……気づいていたんですか」


アナルドは昼間に結婚式のやり直しをした時も、愛の誓いの言葉は言わせなかった。

普通ならお互いに生涯愛し合うことを誓うと宣誓する場面がある筈だ。

それをすっとばして、お互いが夫婦であることしか神の前で認めさせなかった。


「俺はひたすらに貴女を愛しています。そして永遠に変わらぬ愛を貴女に誓います」


そっとバイレッタの片手を掬うと、指先に恭しく口づけを落とす。

それだけで、指先に熱が籠る。全身が火照ったように熱くなるのだから不思議だ。


「たとえバイレッタが信じられなくても」

「私からは誓わなくていいんですか?」


ぽつりとこぼせば、アナルドはなぜか嬉しそうにほほ笑んだ。


「貴女が俺の妻でいてくれる間は、俺を想ってくれていることはわかっています。変なところで自信がなくて、照れ屋で意地っ張りで、今も少し緊張してくれているとても可愛い妻ですから」


暴かないで!

目の前の夫の余裕に満ちた顔が本当に腹が立つ。


思わず怒鳴りつけそうになる言葉をぐっと飲み込めば、ゆっくりと寝台に倒された。


「だから何度でも、いつでも貴女に愛を証明させてください。俺に愛されてくださいね」


覆いかぶさりながら見下ろしてくる妖艶な笑みを浮かべた男は壮絶に美しかった。

だからバイレッタはうっかり流された。

彼が語る愛の証明が現在30枚あることをもっと真剣に考えるべきだったのだ。


結局、やり直しの初夜は三日三晩繰り広げられることになる。




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