番外編⑥‐5 虚飾と疑惑

恙無く結婚式が終われば、スワンガン伯爵家でささやかな晩餐会が開かれた。

皆で移動して食事をする。

いつもの食堂にはそれぞれの家族が並んで楽しげに談笑を交わしている。


感激したミレイナがベナードに宥められていたのもいつもの光景といえばいつもの光景か。

母も瞳を潤ませて、あんなにお転婆だったのがすっかり淑女になってと感動していたが、今でも剣を振り回していると知ったらいい加減止めなさいと窘められるに違いない。事情を知っているアナルドが何も言わなかったのが救いだろうか。


あとの要求が凄そうだが。


義父はひたすら不機嫌そうな顔をしていたのは、茶番だと思っているからだろう。それでも付き合ってくれるのだから、根は好い人だ。本人に告げれば怒り狂うに違いないが。


義母は綺麗だと母と一緒に誉めそやしてくれた。彼女は相変わらず義父との仲は冷めていて、かといってモヴリスとも一定の付き合いのまま続いている。スワンガン伯爵家の嫁としてはそれなりにうまく立場をこなしている人でもある。


それぞれの面々を見回して、乳母に抱かれているエルメレッタに目を向ける。彼女は興味深そうにこちらを注視していた。一歳になるのに、ほとんど泣かない大人しい娘だ。


たくさんの人に囲まれて、ここまで来たのだとなんだか感慨深くなった。もちろんこの場にいない人も含めて。

小さな勝気な少女が、随分と遠くまできたものだ。あの頃、未来を見据えてがむしゃらに邁進していた自分に教えてあげたい。目の前のことで手一杯の小さなバイレッタに、温かくて優しい未来がずっと続いていけると信じられる日が来るのだと。


これまでの人生で、彼と結婚していなければきっと出会えなかっただろう人たち。なんとも不思議な気持ちになって隣に目を向ければ、柔らかく微笑んでいるアナルドの姿がある。


慈愛に満ちた彼の瞳が、深い愛情を讃えて向けられている。それが自分であるのだから、本当に不思議な気持ちになる。


彼はバイレッタのどこがよかったと言うのだろうか。

いや、以前から言われてはいたけれど、やはりいまいちピンとこないのだ。


それはきっと自分に自信がないからだろう。

自信に満ち溢れているように見せかけているだけで、ある意味それは虚飾でしかない。

彼はその強くありたいと望む姿勢も素敵ですよと言うけれど、やはり心のどこかで信じられないのかもしれない。

そもそも冷徹狐を素直に信じられない疑り深い性格がよくないのか。

しかし、これは用心だ。

彼と結婚して十年だが、実質二年で一体何がわかるのか。彼ほどわかりにくくて複雑な人間はいないだろう、と思うのだ。


では、どうすれば相手を信じられるのか。今のバイレッタには想像もできない。

こんなことで悩んでいるのだとこっそりと打ち明ければ、彼は幻滅するだろうか。


きらびやかな料理を前に、はあっとバイレッタは息を吐くのだった。

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